もう帰ろう。今日じゃなくてもシバケンに会う機会はこの先もきっとある。
警察署の入り口に背を向けて帰ろうとしたとき「実弥ちゃーん!」と背後から声がして振り返るとスーツを着た男性二人が自動ドアから出てくるところだった。

「ごめんね、待った?」

そう言って笑顔を見せる高木さんが軽く手を振りながら私のところへ向かってくる。その後ろで驚いた顔をしたシバケンが私を見ながらゆっくりと近づいてきた。

「本当はもうちょっと早く帰れたんだけど、柴田のこともあったから事務処理が遅れちゃって」

申し訳なさそうに謝る高木さんに私は首を振った。

「いいえ、こちらこそ変な連絡をしてすみませんでした」

「とんでもない。優菜ちゃんから連絡もらえて嬉しかったから」

高木さんはどんな用件であれ優菜から連絡をもらえたことが心から嬉しそうだ。

「高木、これどういうこと?」

シバケンは動揺したまま私と高木さんを交互に見た。

「じゃ、俺帰るから」

「は?」

状況を説明しないまま帰ると言い出す高木さんにシバケンは慌てた。

「お疲れー」

「ちょっ、待てって!」

高木さんはシバケンの声を無視して軽く手を上げながら駅の方へと歩いていった。

「えっと……」

シバケンは髪を掻きむしった。この状況にわかりやすく戸惑っているようだ。私だって緊張しているけれど思い切って口を開いた。

「高木さんにここにいたら柴田さんに会えるって教えてもらったんです」

「え?」

「この間居酒屋で私と一緒にいた優菜って子を覚えてますか?」

「ああ……覚えてます」

「優菜と高木さんが連絡先を交換していたんです」

あの日解散する直前に高木さんは優菜に強引に連絡先を聞いていた。