パトカーから降りてきた警察官二人が見物する人を掻き分けてケンカの中心に到着した。その内の一人の警察官を見て私は息を呑んだ。濃紺の制帽の下から見えた顔はシバケンだったのだ。私の前を通ったけれど、目の前の騒ぎに集中しているシバケンは私に気がつくことはなかった。
このままこの場を離れようと思う気持ちと、気づかれないのならまだ彼らの仕事を見たいという気持ちがせめぎ合ったまま動けなくなった。
警察官が増えたことに焦ったのか、暴れる男性は自分を押さえる警察官を振り払い、タクシーのボンネットに飛び乗った。
「見せもんじゃねーんだよ!!」
好奇の目を向ける見物人たちにボンネットの上に立って怒鳴り散らした。このままではタクシー運転手だけでなく、関係ない周りの人にも危害が及ぶかもしれない。
するとシバケンがタクシーの前に立った。危険な状況だと判断したのか、真剣な表情で近くにいる人に「離れてください」とタクシーとの距離をとるように大声を出した。そうして周りを見渡して私がいることに気がついた。シバケンの瞳が揺れたのが驚くほどはっきり分かった。彼も私を見て動揺している。私と彼はお互いに見つめ合って視線を逸らすことができなかった。
「お前らも邪魔だ!」
頭上からの怒鳴り声に我に返った私はボンネットの上の男性を見た。男性は周りを囲む警察官を焦点の合わない目付きで見下ろし、膝を曲げて跳躍の姿勢をとった。ボンネットの上で弾みをつけてシバケンめがけて飛んだ。
「シバケン危ない!!」
思わず叫んだ。私から視線を逸らし、タクシーを振り返ったシバケンの左肩に男性の足が勢いよくぶつかった。男性はそのまま背中から地面に落下して動かなくなり、蹴られたシバケンはよろめいて肩を右手で押さえながら地面に膝をついて呻いた。
「シバケン!!」



