「何? イベント?」
「いや、ケンカっぽいよ」
近くにいたカップルの会話が聞こえた。
「警察呼んだ方が良くない?」
そう言ったカップルの横を抜けて足を止めることなく駅まで歩く。揉め事の場面に遭遇したことはないけれど夜の繁華街ではよくあることだろう。疲れた私には見物しにいくほどの元気は残っていなかった。
駅構内の階段を上ろうとしたとき、上から二人の警察官が勢いよく下りてきて一瞬体が固まった。シバケンだったらどうしようと焦り足が動かない。今シバケンに会ってもどんな顔をしていいのか分からない。だって酔っていたからといってもいきなり抱きしめられるなんて思わなかった。
あの出来事は強制わいせつ罪なんじゃないかな? しかも警察官がだよ?
こんなこと誰に相談すればいいのだろうと悩んでいる。数日たっても怒りとショックは治まらない。それほど私のシバケンへの想いは大きかったから。
足を止めて迷っているうちに警察官は二人は私の横を通ってそのままロータリーへ走っていった。二人のどちらもシバケンではなかったことにほっとした私は迷った末に警察官が走っていったロータリーに戻った。警察官への尊敬の気持ちを取り戻したくて、彼らの仕事を近くでもう一度見たいと思ったから。
ロータリーに集まる人の間を抜けて騒ぎの中心まで進むと一台のタクシーがあった。運転席と後部座席のドアが開いたまま不自然に停車し、そのタクシーの前でタクシー運転手の胸ぐらを掴んで怒鳴る男性を警察官二人が引き剥がそうとしているところだった。
うわぁ、本当にケンカだ……。



