「彼氏とケンカして裸足で歩いてた子でしょ」
「そうじゃなくて……何年も前ですよ」
「え? 前にもどこかで会ったことあったっけ?」
「はい……だいぶ前のことなんですけど……」
シバケンは完全に忘れているようだ。7年も前のことだから仕方がない。けれど私は忘れたことはなかった。再会できて嬉しかった。もしかしたらシバケンも思い出して「ああ、あの時の」と懐かしさを共有してくれるのではと期待したのに。
「おかしいなぁ。実弥ちゃんみたいな子、一度会ったら忘れないのに」
そう言うとシバケンは足を止めて私の前に立った。
「え?」
シバケンは前屈みになり私の顔をじっと見た。
「やっぱり思い出せないな」
意外な行動に驚いた。私の進路を妨害するような立ち位置だ。じわじわと不信感が湧き上がる。これが好きになったシバケンなのかと疑いたくなる。優しい笑顔は消えて、怖いと思うほど無表情で私を見つめる。
「それとも、会ったことがありますって言って近づく作戦? もしかして俺を誘ってる?」
「違います!」
なんてことを言い出すのだ。私はそんなつもりなんて微塵もない。
「そう……」
シバケンの腕が突然私の肩を抱いて引き寄せた。気がつけば両腕で体を拘束され、見上げた私の顔の目の前にシバケンの顔があった。
「え? あの……」
「可愛い」
「え、え?」
突然のことに戸惑い腕でシバケンの肩を押そうとしたけれど、私の意図を察したのかシバケンの腕が私の腰に回った。離さないとでも言うように抱きしめられる。
「柴田さん、放してください……」
それでもシバケンは離れる様子がない。しかも顔を私の頭に寄せてくる。
「可愛すぎて無理」
「っ……」
何度も可愛いと言われ照れるどころか目が潤み始めた。拒否しても離れないシバケンに悲しみと怒りが一気に溢れる。私の大事な思い出を上書きしてしまうなんて最低だ。



