「ケンカの通報で行けば暴れる男に引っ掻かれるし、交通違反者には税金泥棒だって罵られるし。いいことないっすよ」

体に電流が走ったかと思うほどの衝撃を受けた。憧れの警察官である高木さんが仕事の愚痴を言うなんて聞きたくなかった。

「疲れることばっかりで嫌になるよー」

「大変な……お仕事なんですね……」

力なく呟いた言葉はシバケンにも聞こえたようだ。

「そうですよ。理想と現実なんてこんなもんです。人の悪意を向けられる嫌な仕事ですから」

シバケンは静かに言った。
警察官は皆真面目で優しくて正義感に溢れる人だと思い込んでいた。他の同僚も肯定しないけれど否定もしなかった。
陽気にビールを飲む高木さんとは反対に私はどんどん落ち込んでいく。憧れの警察官が思っていたような人物ではなかったことがこんなにもショックだなんて。暗い顔をしているだろう私をシバケンは見つめてくる。その視線すら居心地の悪さを増長させて悲しくなる。

シバケンたちは既に二次会だったようで、私たちが合流して程なく解散になった。会計は男性が全て支払ってくれた。優菜は最後までご機嫌だったけれど、私は口数が少なかった。

「俺らはバス停まで歩くから」

「じゃあね実弥、お疲れさまー」

満面の笑みで男性陣にくっついてバス停まで歩く優菜に手を振ると「実弥ちゃん、近くまで送るよ」とシバケンが申し出た。

「いえ、あの、大丈夫です……」

「そんなこと言わないで。もう遅い時間だし、女の子一人じゃ危ないから。俺がいれば大丈夫でしょ」

「でも……」

シバケンには悪いけれど遠慮したい。今は一人で頭を整理したいのだから。

「頼むから送らせてよ」

真顔で低い口調のシバケンに怯んだ。落ち込んでいるなんて気づかないのか、まるで私を捕らえるかのように視線を逸らさない。