テーブルにいたのはシバケンと同僚3人。優菜の方にグラスを転がした男性は高木と名乗った。
「俺と柴田は同じパトカーに乗ってるんです」
高木さんは優菜が気に入ったのだろう。さっきから優菜にばかり向かって話しかけていた。
「へえー、皆さん警察官なんですね」
優菜の顔つきが変わった。常々早く結婚したいと言っていた優菜はこの場の全員が公務員だと知って本気の恋愛モードになったようだ。
「ね、おねーさんたちお名前は?」
酔って上機嫌の高木さんに私は呆れた。酔っているにしても初対面でこんな軽い調子で話すなんて信じられなかった。対してシバケンは酔ってはいるものの口数は少ない。
「小橋優菜です」
「黒井……実弥です」
「実弥ちゃんか……」
私が名乗ると向かいに座るシバケンは私を見つめる。もしかして私のことを思い出してくれたのではないかと期待してしまう。
「ほんと、よく会うよね」
「そうですね」
ここまで偶然に会うのなら運命かも、なんてシバケンは私に都合のいいようには考えていないかもしれないけれど。
「女の子がくると華やぐよねー! おにーさーん、生くださーい!」
店中に響く大きな声を出す高木さんに驚いた。先ほどから一際騒いでいたのは高木さんだったようだ。高木さんの横に座る優菜も驚いて目を丸くしている。
「警察のお仕事も大変ですよね。急がしそうで」
優菜は高木さんを見ようとせず他の男性に言った。
「そんなことないですよ。勤務は3交代制で時間も取りやすいですし、大きな事件なんて滅多にないですから」
そう答えたのはシバケンだ。
「そーそー。俺たちは文句言われることが仕事ですからね」
高木さんが運ばれてきたビールを飲みながら会話に混ざった。



