「実弥は彼氏いるじゃん」
「それが……別れた」
「え、そうなんだ?」
興味津々という顔で優菜が身を乗り出す。そういえば久々に太一のことを思い出したかも。それほどに新しい恋愛に意識を強く向けていた。太一は今元気にやっているだろうか。
「うわ!!」
突然隣から叫び声が聞こえた時、隣から簾の下を抜けてグラスが優菜の足元に転がってきた。中に入っていた少量のお酒を撒き散らしながら。
「すんませーん!」
簾が持ち上がって隣のテーブルの男性が顔を出した。
「大丈夫でしたか?」
そう言ってグラスを拾う男性の顔は赤く、相当酔っているようだ。
「大丈夫です……」
優菜の服は汚れなかったけれど、グラスをひっくり返すほど酔っている人たちの隣はもう嫌だと思った。テーブルを替えてもらおうと思ったとき、簾の奥の席に座る人物が目に留まった。
「あれ?」
「あ!」
目が合って驚いた。奥の席にはシバケンが座っていた。
「なんで……」
「こんばんは」
シバケンの顔はほんのり赤く、いつもより口が緩んでいる。
「柴田の知り合い?」
「そーっす」
「実弥? 知り合い?」
優菜は不思議そうな顔を私に向け、グラスを転がした男性はやたら笑顔で優菜を見て、シバケンはジョッキを一気飲みしている。
「よかったら一緒に飲みませんか?」
そう提案してきたのはグラスを転がした男性だ。
「えっ?」
「俺たち職場の同僚なんですけど、男ばっかで花がないんですよ」
突然誘われても困惑してしまう。どうする? と優菜と目を合わせた。シバケンの同僚ということは、この酔っぱらいたちは警察の人ということだ。それならば危険なことはないだろう。何よりシバケンと距離を縮めるチャンスだ。
優菜の顔はしょうがないねと言っている。断るのも悪いと思った私たちは店員さんに承諾を得てから席を隣に移動した。



