父の紹介なんて死んでも嫌だ! 絶対に傲慢な人に決まっている。恋人まで決めようとするなんて最低の父親!
けれど拒否してもあの父のことだから、いずれは私の結婚相手まで決め兼ねない強引さを持っている。結局私は父に逆らうことができないのだから。
◇◇◇◇◇
「夏帆ちゃん、お疲れ様!」
定時間近の総務部のフロアで大勢の拍手に包まれて、北川さんは総務課の先輩である丹羽さんから花束を渡された。
「ありがとうございます」
今日で退職する北川さんは笑顔だった。
私と同い年だけれど入社時期が数年早く、私より先輩になる北川さんは第一印象と比べて明るくなった。気が弱そうな上にモラハラともとられるんじゃないかという社内の『雑用係』を約4年間も勤め、最後はどの社員にも負けない気の強さと意地を見せた。いろんな意味で彼女の後任は私には荷が重い。
プルルルルルルル
北川さんの、いや今は私のものとなったデスクに置かれた電話が鳴ったから恐る恐る受話器を取った。
「はい、経理……じゃない、総務課の黒井です」
「レストラン事業部の今江です」
「お疲れ様です……」
「レストラン事業部でラミネートフィルムが大量に必要になったんですけど、オンラインで発注お願いします。200枚ほど」
「え……それはそちらの部署から発注できますが……」
「ちょっと分からないので、総務部に頼むことにしました。よろしくお願いします」
「あの、ちょっと待って……」
何も言えないままプツリと内線が切れてしまった。
自分たちで調べて発注すればいいのに……。こんなんじゃ雑用係なんて面倒なだけじゃない!
「黒井さん」
後ろから声をかけられ振り向くと花束を持った北川さんが立っていた。



