「騒がしくて病院なのにゆっくり寝てもいられない」
少しイライラした声でこちらを一切見ずに答えた。
「こんにちは。お元気そうで安心しました」
顔が引きつったシバケンが父に歩み寄った。
「実弥が色々と世話になったそうだね。ありがとう」
父から出た言葉とは信じられない。シバケンにお礼を言うなんて絶対にないと思っていた。
「まだ君を実弥の結婚相手として認めた訳じゃない。早く納得できるくらいに出世して私を認めさせてみなさい。実弥も、いつか生まれるかもしれない孫だって恵まれた生活をさせなきゃ君を許さないよ」
どこまでも上から目線の発言に呆れたけれど、シバケンと付き合うことは認めてくれたと受け取れる言葉に肩が軽くなった気がした。いつもの父と比べればシバケンへの態度はかなり柔らかい。
「はい。必ず」
シバケンは父に向かって力強く言うと頭を下げた。私は二人を見て目が潤むのを止められなかった。
◇◇◇◇◇
社員全員に送られたメールにて部署異動や昇格が発表された。その中に私の名前を見つけ、異動は本当に叶ったのだと安心した。
『総務部 総務課 黒井実弥 レストラン事業部 店舗管理課への異動を命ずる』
何度も読み返して間違いがないことを確認する。
あれから結局退職願を部長に渡すことはなかった。その替わりに部署異動を願い出た。総務部での仕事をするうちにレストラン事業部の仕事内容を知る機会が増えた。既存の店舗の運営管理に興味を持ち、新規店舗の書類を作成するうちに新しい案を私まで自然と考えるようになっていた。それならば企画の段階から関わってみたいと強く思うようになった。



