「今眠ったところです。なので日を改めていただけますか?」
意識せず強めの口調で言ってしまった。父の姿が見えないように後ろ手で病室のドアを閉めた。せっかく寝た父を起こすのは可哀想だから。
「そうですか。でも実弥さんに会えたのはちょうどよかったです」
「はい?」
「お父様もこのような状態ですし、入籍の日を決めましょう」
笑顔で言い放つ坂崎さんに再び恐怖心が芽生えた。
「入籍……ですって?」
「はい。そうすれば専務も安心でしょうから」
「何を言っているんですか……」
この人はしつこいを通り越して怖い。この前向きさは恐怖だ。
「実弥さんにとってもその方がいいのではないですか?」
「どういう意味ですか?」
一歩私に近づいた坂崎さんに警戒する。
「専務の職務復帰は今のところ未定ですよね。もうほとんど車椅子での生活になってしまうと伺っています。ご自宅での生活も大変じゃないですか?」
「それは……」
「何かとお金も入用でしょう。今の実弥さんとお母様には厳しいこともあるのではないですか?」
この言葉に自然と坂崎さんを睨みつけた。
「そうですね。お金は必要です。けれど何とかしますからお構い無く」
坂崎さんの言うことはもっともだ。父が働けなくなるかもしれないのならお金は必要だ。でもこの人に頼るつもりはない。
「どうぞ僕に頼ってください」
気味が悪いほどの笑顔で更に私に近づいてきた。じりじりと私を壁との間に追い詰める。
「結構です……」
坂崎さんにとって父の事故は絶好の機会なのだ。この隙に父と私に恩を売り、会社での立場を強固にする。
坂崎さんは前屈みになり私に顔を近づけた。
「僕と結婚しないと生きていけないだろ?」



