たくさんの人の視線を感じる。何台かのスマートフォンを向けられていた。けれどそれは私だけではなかった。先に刺された男性の横にしゃがみ容態を確認する警察官、現場を荒らさないよう大声で人を誘導する警察官にもスマートフォンが向けられる。どれもが現実離れしているように感じる。
私と優菜が案内されたのは古明祭りの本部として使われているビルの中にある事務所だった。用意されたパイプイスに座ると「ちょっとここで待ってて。すぐに戻るから」と言ってシバケンと高木さんは事務所から出て行った。
事務所にいるスタッフは事件のせいか忙しそうに出入りし、電話がひっきりなしにかかってくる。遠くから救急車のサイレンが聞こえた。そういえば先に刺された男性は大丈夫だろうか。
「怖かったね……」
呟く優菜に「そうだね」と返した。腰が抜けていた優菜は先ほどよりも落ち着いたようだ。
「高木さん、かっこよかったね。優ちゃんを抱き締めちゃって」
「うん……」
優菜は両手で顔を覆った。泣いているのかと思いきや「うー」と唸っただけだ。これは高木さんに落ちたな、と私は微笑んだ。
「高木さん、チャラチャラしてるかと思ったけど、仕事はちゃんとしてるんだもん。見直しちゃった」
顔を赤くして優菜は膝に手を置いてぎゅっと握りしめる。
「惚れ直した、の間違いじゃない?」
「もー」
照れる優菜が可愛らしい。
「けど本当に、かっこよかったね」
高校生だった私を守ってくれたように今日のシバケンはかっこよかった。
事が全て収束して古明祭りが終了した。今日の出来事は全国ニュースになり、SNSは事件に対する投稿で賑わった。



