「先代が突然亡くなったとき、先代への信用でもっていた会社は業績が大きく傾いたの。お義兄さんもお父さんも相当苦労して立て直したのよ。お母さんもそのときは実弥がお腹にいても仕事を掛け持ちしてね」
「初めて聞いた……」
「あの頃のお父さんは思ったの。この先お母さんや産まれてくる実弥に絶対に苦労はさせないって。だから実弥の人生にあれこれ口を出すのよね」
「…………」
父の思いは分かった。けれど助言全てを受け入れなければ生きていけないわけではない。父が思うよりも私はもう子供じゃない。
「お母さんもお父さんの苦労を見てきたから、実弥にうるさく言うお父さんを止めることは少なかったの。坂崎さんとの結婚も」
「そのことだけど、私は……」
「分かってる。この間連れてきた警察官の方とお付き合いしてるのよね」
「うん」
「坂崎さんも悪い人ではないと思う。お父さんの気持ちもわかるけれど、お母さんは実弥の選んだ人との人生を応援するわ」
「ありがとう……」
「ごめんなさいね。今まで実弥を応援してあげられなかった」
母は悲しそうな顔で私を見た。
何度母に味方になってほしいと思っただろう。進路に就職に結婚に。でももう母に対する思い全てがどうでもよくなった。
「実弥は一旦帰りなさい」
「でも……」
「病院にはお母さんがいるから。実弥は仕事があるんだから今日はもう休みなさい」
気がつけば病室の窓から見える空は薄暗い。知らせを聞いて駆けつけてから数時間ここにいたことになる。
「じゃあそうする。何かあったら連絡してね」
母にそう言って病院を出てから会社の近くに戻った。
父が事故に遭った交差点はもう何事もなかったかのように車も人も行き来していた。



