「明らかに仕事と関係ない用事は部長に報告して、部長から注意してもらってくださいね。雑用係なんて不名誉なポジションは私で終わらせたいので」

「はい……」

歯切れ悪く返事をする。残念ながら『雑用係』は私も継続しそうだ。同い年だというのに彼女に比べ気の強さも自信もない私はどんな要望も引き受けてしまいそうだ。

契約社員の北川さんの後任が正社員の私になるのは厄介払いだという気がしてならない。自分でも悲しくなるが、経理課なのに数字に弱い。経理課から追い出そうかという時に北川さんがタイミングよく退職することになったのではないかと勘ぐってしまう。

こんなはずじゃなかった。私はこんな社会人になりたいわけじゃなかった。目標だってあった。尊敬している人のようになりたかった。

警察官になりたいと父に打ち明けたのが間違いだった。小さい頃から家庭での全ての決定権は父にあった。進学希望先も習い事も、私の意見など通ったことがない。中学高校と父の望む学校に進学した。
とにかく頑固で横柄な父は私と母の意見も聞かず何事も勝手に決めてしまうところがあった。少しでも意見を言おうものなら怒り出すのも早かった。もし我が家にちゃぶ台があったら古いドラマの場面のようにひっくり返していることだろう。

学生の頃の私は不満を抱きながらも本気で抵抗することはなかった。けれどシバケンという目標と出会ってしまってから警察官になりたいと望むようになった。当然父は反対した。警察官がいかに尊敬できる仕事なのか、公務員の安定性を主張しても父が許してくれることはなかった。女は結婚して家庭に入るべきという古い考えの持ち主だった。