「こんな時間に来るってことは、また家で何かあったんだ?」

「うん……」

話したいことはたくさんある。けれど言葉にできずに飲み込んだ。シバケンに何をどこから話せばいいのか迷って唇を噛んだ。

「シバケンに会いたくて、話したくて来たのに、言えない……」

恋人と違う男に迫られたと言えるわけがない。

「嫌だったこと?」

そう優しい声で聞くから小さくうなずいた。

「坂崎さんって人のこと?」

シバケンの質問に躊躇いながら再びうなずく。

悔しかった。坂崎さんを選ぶと決めつけられたこと、父に逆らえないと言われたこと。

「はぁー……」

シバケンが溜め息をつく。

「親の許可がないと実弥と一緒にいられないのか」

この言葉に目を見開く。

「シバケン?」

「お父さんに認められないのは仕方がない部分もあるけど、他の男を薦められるのはきついな……」

「っ……」

伏し目がちになるシバケンに焦って私の目が潤んでくる。
「親の許可がないと」なんてセリフをシバケンからも言われるとは思わなかった。元カレに言われたときはいい気分にはならなかったけれど、今はシバケンに対して申し訳なさが強くなる。

「ごめっ……なさい……」

頬を涙が伝う。私がいつまでも自立できないで甘えた生活をしてきた結果、シバケンに嫌な思いをさせてしまっている。

そんな私にシバケンは「おいで」と両腕を広げた。前のめりになりシバケンの胸に体を預けた。

「謝らないで。実弥は悪くない。一緒にいるにはちょっと手強い障害だけどね」

「ごめんなさい……ずっと……シバケンに辛い思いさせて……」

また駄目になってしまう。最愛の人を傷つけて失ってしまう。

「頼むから謝らないで。確かに参ってはいるんだけど、実弥に悩んでほしくない」

「私って自分じゃ何もできない人間なんだって思い知って……」

仕事も生活も結婚も、自分ではどうにもできない。