作ったような笑顔で淡々と未来を語る彼の考えがわからない。
「あの、坂崎さんは私と結婚するということでいいんですか?」
「はい。結婚できたら嬉しいです」
当たり前だとでも言わんばかりに私から目を離さない。
「それは父に言われたからですか?」
「いいえ。まあ最初はそれもありました。数年前から実弥さんを嫁にと言って頂いていたくらいですから」
知らなかった。父はかなり前から坂崎さんとのことを考えていたなんて、気持ち悪すぎて吐き気がする。
「けれど今は僕の意思でもあります。実弥さんは僕の理想です。結婚してほしい」
「…………」
突然で驚くほどのスピードプロポーズに言葉が出ない。まだ坂崎さんをよく知らないし、もちろん付き合っているわけでもないのにプロポーズされてしまい動揺する。
「あの……すみません、突然のことで頭がついていきません……」
「実弥さんにはお付き合いしている人はいますか?」
当然聞くべき質問を混乱する私にぶつけてきた。
「はい」
「そうですか」
嬉しいのか悲しいのかも分からない感情がこもっていない声に、この人は私の恋人の存在をどうでもいいと思っていると感じた。
「やはりあのとき見かけた方が恋人ですか」
「見かけた?」
「実弥さんと一緒に車に乗っているところを見かけた事があります」
シバケンが父に挨拶しに来たときだろう。あのとき歩道で見かけた坂崎さんの視線を感じたことがあった。やはり見られていたのだ。
「私は恋人との結婚を考えています。だから坂崎さんとは結婚できません」
譲れない意思だけははっきりと伝えた。そうして「すみません」と最後に謝った。きっかけは父であれ坂崎さんは私と結婚したいと思ってくれたのだ。その気持ちに応えられなくて申し訳なく思う。