「俺に必要なのは、社長という肩書きじゃない。
智美が必要なんだ」


智美を失うくらいなら、こんなのいらない。


弟がこの会社を狙っていた。

なら、弟にくれてやろう。



「社長、聞こえませんでした?

離してください」



それなのに智美は、未だに離してくださいと言っている。


だけど言ってることと真逆で

智美の体は震えているし

なにより声が泣きそうだ。



そこで俺は思い出した。


ここ最近の智美の様子のおかしさ。



きっと、何かあるはず。

別れを告げなきゃならない、別れたくないのにあんなことを言うしかできなかった理由が。



「離さない、連れて帰る」


そう言って俺は、智美の腕を引っ張って家に連れて帰った。