左の、一番後ろ。あの席に座る女の子。
誰かと話すこともなく、ただ窓の外を眺めている。

〝浮いている〟

僕以外のクラスメイトも、多分そう思っていると思う…。

三つ間を開けての斜め前が僕の席。
僕は、この席が好きだった。
調度この位置から、函南さんの横顔がよく見えたから。
よく見たいのなら、隣の席が一番いい。
そう思うかもしれないけど、僕はこの距離が好きだ。


「あっ……」


一瞬、僕の方を見た。
否、睨まれた…の間違いかもしれない。
そう。僕がこの席が好きな理由の一つ。
ストーカー紛いかもしれないけど、観察感覚で彼女を見ていられるから。


函南さんの雰囲気は、若干…かなり暗い。
それでも、よく男同士の会話の中に、名前があがる。
「顔はいいよな。」
函南さんは美人だ。
たまに、外見だけの興味本位で函南さんに、近づく奴がいる。
普通の女子だったら、「何だよー」とかい言いつつも、好意を寄せられていることに悪い気はしないはず。
……だけど、函南さんは違う。

『函南、アド教え―』

『教えない』

『なぁ、こっちで―』

『話さない』

よくこんな光景を見ては、「勇気あるなぁ…」としみじみする。
とにかく、函南さんは言葉で表現するのが難しい人。
今流行の〝ツンデレ〟そんな言葉は片付けられない。


そんな時だった、滅多に席を立つことのない函南さんが、僕に向かって歩いてくる。


「西島君」

「えっ!?」


名前を呼ばれたことに、心底驚いた。
函南さんが、僕の名前を知っているとは思わなかった。
というより、クラス全員の名前を知っているのかもわからない。
始めて聞くわけではないけど、僕の名前を発する函南さんの声は、透き通っていた。
その声に聞き入るように固まっていると、右手をすっと伸ばす。


「消しゴム、落としたよ」

「あ、ありがとう」

「別に。」


表情一つ変えずに、机の上に消しゴムを置くと、綺麗な足の運びで戻っていった。


「おい、お前…赤くなってるぞ?」

「う、うるさいなっ!どーだっていいだろ?!」