「じゃあさー、いっせーの、でかけようよ!」
「オッケー。奈々未ナイス〜。」


教室の真ん中で、大声で意地汚い作戦を立てる女子達を、罰する人はもういない。

俺も、友人の順平も、素知らぬ顔でいる。
だって、現状は彼女が招いたものだから。

女子達は教室の後ろ扉に集まる。
水色のそれを持って。

ガラリ、地獄の始まる音がする。
彼女はまだ気付かない。

水色のバケツを構えたその悪魔を、
ニタリと笑ういやらしい笑顔を。

「いっせーの!」

バシャリ、彼女は水をかぶる。
下を向いたままの彼女は、どんな表情をしているのだろうか。


「あーあ、かわいそ。水被っちゃったね。寒いよねえ。冬だもんね。」
「でもさあ、冬美ちゃんはアンタの何倍も苦しんだんだよ?」


「まじさ、いつ冬美ちゃんに謝んの?土下座しろよ土下座!!」

「あ、それいいじゃん。はい、どーげーざ!どーげーざ!」

俯く彼女__紫花(すみれ)に浴びせられる土下座コール。心底楽しそうに笑うクラスの女子に嫌気がさす。

同じ人間だとは思いたくない。
クラスの人間も、紫花も。

本来の俺たちなら止めに入るところだ。
大切な幼馴染で、部活仲間だから放っておけないと。
そんな綺麗事を並べて、助けようとしていた。

長く続くコールを聞いているのかいないのか分からない紫花は、拳を握りしめる。爪が食い込み、血が出るほどに。