「今頃、アイツどうしてるかな?
アイツが、沖田さんなんてホント、世も末だよ」
そう言いながら、花桜は大きく伸びをした。
もう一人の私が望んで仕組まれた現実だって……、
花桜が知ったら花桜は私を軽蔑してしまうような、
そんな気がして……後ろめたさが膨らんでいく。
「ねぇ、私たちが伏見に引っ越ししていろんなことが起きてるんだよね。
外の世界では。
徳川慶喜だっけ?
徳川最後の将軍は、もう二条城から大坂に退いて京にはいないんだよね。
近藤さんが負傷して帰ってきて、大坂へ沖田総司になっちゃった敬里と一緒に行っちゃった。
京の町では、何時戦が始まるかわかんないって町人たちは不安そうだよね。
今日なんか、隊士さんたち自由行動OKなんだよね。
京に来てから結婚して世帯をもった隊士さんたちは、
家族のもとに顔を見せていい日にしたんだよね」
「そうみたいだねー」
「あの鬼の土方さんがそんなこと言い出すもんだから、
なんかおかしなものでも食べたのかな?
なんて気にしちゃったよ。
でもやっぱり、鬼の副長は顕在してたから安心したんだけどね」
そう言って、花桜はクスクスと笑い出す。
「何かあったの?」
「あぁ、門の前でね。
新政府から使いって人が、伏見奉行所からに新選組は出ていけって言いに来てたんだけど、
土方さんが、それは出来ねぇって。
この地を守ることが与えられた使命であり、武士として動くことは出来ねぇって。
強引に押し切っちゃって、言葉でねじ伏せたって言うか。
けど……こういう時の、土方さんって頼りになるよね」
そう言う時の、土方さんは頼りになる。
花桜はそう言ったけど、もう一人の舞に言わせてみれば、
自分で自分の首を絞めて痛めつけてるだけ。
誇りと言う柵で、がんじがらめに絡めとられて、
ただ真っすぐに歩き続けるしか出来なかった不器用な人。
もうすぐ……敗北の未来が幕を開ける。
「舞?」
花桜が再び、私の顔を覗き込んでた。
「あっ、ごめん。
少し考え事してた。
この先の未来が、どうだったかなーって」
「瑠花がいたら、少しは手掛かりがあるんだろうけど、
瑠花は向こうの世界に帰った。
帰ることが出来たのは良いことだから、
私はこっちにいる私たちで精一杯のことを出来たらいいんだよね」
私が巻き込んだ、瑠花は向こうへと帰ることが出来た。
今度は花桜もちゃんと向こうの世界へ帰すから……。
それは私が絶対に守り通さないといけない自分への誓い。
「ねぇ、花桜。
少し鍛錬、手伝って。
頭の中をクリアにしたいから、無心に打ち込みたい心境なの」
そう言って花桜を誘うと、
私は肩を並べて道場へと足を運ぶ。
自由時間を可能にした日であっても、
残っていて戦いに備えるものも多々いるようで、
あちらこちらから鍛錬の音が響いていく。
そんな道場に二人、お辞儀をして入室すると、
木刀を手にしてお互い向かい合わせて構えて一気に打ち込み始めた。
花桜の太刀筋が、前よりも重たくなっているのを感じる。
「舞、何があったの?
剣が迷ってるっ!!
いつもの舞は、こんな打ち込みじゃないでしょ」
剣は正直。
私の心の葛藤なんて、花桜には筒抜けですぐに鋭い指摘が飛び交う。