学校のチャイムが校内に鳴り響いてホームルームが終わると、
私は鞄を手にして、慌てて教室を飛び出していく。

途中、シスターにすれ違うたびにお辞儀をしながら、
正門から飛び出すと、花桜のお祖父さまの家へとまっすぐに向かう。


「こんにちは」

チャイムをならして、何時ものように声をかけると、
花桜のお祖母様が私を中へと迎え入れてくれた。


「瑠花さん、今お茶を入れますね。
 お祖父さんは今、山崎さんのところにお出掛けしてますよ」

そんなお祖母さまの声を聴きながら、
私は室内と入ると、鞄を部屋の隅っこの壁側において、
安置されている鏡の前へと向かう。

鏡が映しだしてるのは沢山の兵士たちに囲まれて、
銃弾の放火を浴びながら、逃げ惑う隊士たちの姿だった。


「先ほど、戦いが始まったんですよ」
「戦い……。甲陽鎮撫隊の戦いなんだから……甲州勝沼の戦い?ですか」
「えぇ。今はそう言われていますね」
「花桜と舞、それに敬里君は?」
「三人とも、何とかやっているようですよ。
 ただ敬里は、風邪をひいて体調を崩してたみたいですわね」

お祖母さまの言葉に、敬里君のポジションを思う。

敬里君のポジションは、沖田総司。
作品によっては沖田総司はこの戦いに出てるというものと、
この戦いまでは出陣したけど、病状が悪化してリタイアしたとも言われてる。

健康体だったはずの敬里君が、結核ではないにしろ、風邪という形で熱がでる歴史に変わった今、
この後の敬里君が辿る、沖田総司としての歴史はどうなっていくの?

この先の未来への疑問ばかりが募っていく。


「ごちそうさまでした」

暫く、お茶を飲みながら鏡を見つめた後、
私は花桜の家を後にして、山崎さんが入院する病院へと向かう。

山崎さんがこの世界に来て、二週間が過ぎようとしていた。

「こんにちは。岩倉です」

そう言って病室に顔を出すと、山崎さんは「あぁ、また来てくれたんだ」っとベットの上で呟いた。
だけど、山崎さんが紡ぎだす言葉は、京都で聞きなれた関西弁ではなくて違和感しかない。


山崎さんが幕末からこちらの世界に来て、
病院で一命をとりとめて、緊急手術をしてから二週間。

意識を取り戻したものの、山崎さんには記憶が何一つなかった。

そりゃ、私はこの目の前にいる人が、幕末からワープしてきた花桜の最愛の人、山崎さんだって知ってる。
だけど現代において、そんなことはあり得るわけなくて。

山崎さんと呼びそうになるのをグッと堪えて、初対面を演じ続ける。


「岩倉さん、今日も来てくれたんですね。
 確か……山波さんと一緒に、俺を助けてくださった方でしたね。
 その節は有難うございました」

山崎さんは、他人行儀にベッドの上でお辞儀をする。

「お加減いかかですか?」
「今日はお陰様で痛みは少ないです」
「記憶の方は?
 何か思い出しましたか?」

私の問いかけに、山崎さんは首を横に振る。