約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)


学校のチャイムが校内に鳴り響いてホームルームが終わると、
私は鞄を手にして、慌てて教室を飛び出していく。

途中、シスターにすれ違うたびにお辞儀をしながら、
正門から飛び出すと、花桜のお祖父さまの家へとまっすぐに向かう。


「こんにちは」

チャイムをならして、何時ものように声をかけると、
花桜のお祖母様が私を中へと迎え入れてくれた。


「瑠花さん、今お茶を入れますね。
 お祖父さんは今、山崎さんのところにお出掛けしてますよ」

そんなお祖母さまの声を聴きながら、
私は室内と入ると、鞄を部屋の隅っこの壁側において、
安置されている鏡の前へと向かう。

鏡が映しだしてるのは沢山の兵士たちに囲まれて、
銃弾の放火を浴びながら、逃げ惑う隊士たちの姿だった。


「先ほど、戦いが始まったんですよ」
「戦い……。甲陽鎮撫隊の戦いなんだから……甲州勝沼の戦い?ですか」
「えぇ。今はそう言われていますね」
「花桜と舞、それに敬里君は?」
「三人とも、何とかやっているようですよ。
 ただ敬里は、風邪をひいて体調を崩してたみたいですわね」

お祖母さまの言葉に、敬里君のポジションを思う。

敬里君のポジションは、沖田総司。
作品によっては沖田総司はこの戦いに出てるというものと、
この戦いまでは出陣したけど、病状が悪化してリタイアしたとも言われてる。

健康体だったはずの敬里君が、結核ではないにしろ、風邪という形で熱がでる歴史に変わった今、
この後の敬里君が辿る、沖田総司としての歴史はどうなっていくの?

この先の未来への疑問ばかりが募っていく。


「ごちそうさまでした」

暫く、お茶を飲みながら鏡を見つめた後、
私は花桜の家を後にして、山崎さんが入院する病院へと向かう。

山崎さんがこの世界に来て、二週間が過ぎようとしていた。

「こんにちは。岩倉です」

そう言って病室に顔を出すと、山崎さんは「あぁ、また来てくれたんだ」っとベットの上で呟いた。
だけど、山崎さんが紡ぎだす言葉は、京都で聞きなれた関西弁ではなくて違和感しかない。


山崎さんが幕末からこちらの世界に来て、
病院で一命をとりとめて、緊急手術をしてから二週間。

意識を取り戻したものの、山崎さんには記憶が何一つなかった。

そりゃ、私はこの目の前にいる人が、幕末からワープしてきた花桜の最愛の人、山崎さんだって知ってる。
だけど現代において、そんなことはあり得るわけなくて。

山崎さんと呼びそうになるのをグッと堪えて、初対面を演じ続ける。


「岩倉さん、今日も来てくれたんですね。
 確か……山波さんと一緒に、俺を助けてくださった方でしたね。
 その節は有難うございました」

山崎さんは、他人行儀にベッドの上でお辞儀をする。

「お加減いかかですか?」
「今日はお陰様で痛みは少ないです」
「記憶の方は?
 何か思い出しましたか?」

私の問いかけに、山崎さんは首を横に振る。