行列が出発して、春日隊を始めとする仲間が増え始めた。
目的の地、甲府城を目指す私たちだけど急ぎの任務のはずなのに、
進行は難航していた。

そんな中の悪天候や、道の悪さ、重い大砲などの近代装備を押しながらの移動。

日に日に下がる隊士たちの士気を、どうにかお酒などを振舞いながら、必死につなぎとめての
進行のように感じた。


出発初日、少し咳をしていただけの敬里も雪に降られ雨に打たれ、体を冷やしてしまったのが影響してか、
少し発熱しているような気配を感じた。


「さぁ、次の宿場までもう少しだ。
 次の場所でも、美味い料理と酒を用意している。
 皆、頑張ってくれー」


そう言って、昔ながらの新選組の隊士たちが、
近藤さんや、土方さんたちの思いを伝えるように何度も何度も呼びかける。

行く先々の人たちは、通過場所が近藤さんや土方さんたちの故郷だから、
次々と持て成してくれる。


「そうですねー。
 宿場についたら、美味しいものを沢山食べれますよ。
 僕も甘いものでも食べたいですねー」


そうやって沖田さん口調で敬里も、農兵から募った隊士たちに話しかけながら
時折、息苦しそうに咳き込みながら、ともに歩いていた。

こんな敬里の様子を見て、私は慌てて敬里の隣へと肩を並べる。
そして、ひそひそと「アンタ、無理してるでしょ」っと耳打ちした。

そんな私の思いとは裏腹に、敬里は沖田さんの口調のまま私に、にっこり微笑み返す。


「無理?誰に言ってるんですか?
 大変なのは僕ではなく、あのお二人ですよ。

 この寄せ集めの隊をまとめなきゃいけないんです。
 昔からの精鋭隊のままなら、こんな苦労なんて必要ないんですけどね」


なんて沖田さん口調で毒づくも、やっぱり、しんどそうなのは私には伝わってくるわけで……。


「アンタが無理して倒れたらどうすんのよ?
 休むのも大切でしょ。
 ちゃんと次の宿場で医者にかかること。いい?」

この場所では、敬里は沖田さんだってことはわかってるつもりなんだけど、
私にとっての敬里は、沖田さんじゃなくて、やっぱり昔から一緒に過ごしてきた敬里なわけで、
そうなると口調も自然と、沖田さんに話しかけてた時よりも強気で砕けてしまう。


そんな私の口調を聞いてしまった昔からの新撰組の隊士は、
驚いたような表情を浮かべる。

そんな隊士たちと視線が合ってしまった私は、
慌てて逃げるように「私も手伝いますねー」っと、荷車を押すのを手伝った。


今日の宿場町へと一行が到着したとき、土方さんが私と敬里がいるところへと姿を見せる。
途端に、周囲の兵士たちに緊張が走る。


「総司、山波、こっちに来てくれ。話がある」


指名されて土方さんに連れられて別室へ移動すると、
そこには斎藤さんと、舞の姿が確認できた。


部屋に入ったと同時にパタリと襖が閉じられると、
土方さんが敬里の方に視線を向ける。


「総司、体はどうだ?
 きついんじゃねぇか?無理すんじゃねぇって言っただろうが……」

そう言いながら手慣れた手つきで、懐の中から取り出した袋の中身を煎じていく。
すると周囲には鰹節のような香りが広がっていく。

土方さんは薬を煎じながら、「とりあえず、座れや」っと私たちを近くへ座らせた。


「わけあって、俺たちが甲府城に到着するにはまだ暫く時間がかかりそうだ。
 よって、お前たちを別動隊として任についてもらいたい。

 そうだな……表向きには、総司の体調不良での行列の離脱。
 だが総司は、このまま宿場にとどまって療養してもよい。
 その辺りは、お前の判断に任せる」


そしてようやく、何かを煎じ終えた漢方薬を器にいれると、
仕上げに白湯らしきものを注いで敬里の前に差し出した。


急に顔色を変える敬里。