「今日、総司の様子見ながら話そうと思ってたの。
その話。
でもどうして?」
「僕の見るそれが、もう一つの現実である事実を受け止めるのに時間がかかったってことかな。
夢の中で僕は、向こうにいる僕と会話をしている。
いやっ違うな。同じものを視ている感覚なんだ。
瑠花にも心配させたくなかったから。
瑠花たちが住んでいた月の世界に来て、
このベッドの上は退屈だけど、僕の体は随分と楽になったように思うんだ。
今日は体が軽く感じられて、ベッドから立ち上がって体を動かしていたら、
看護婦さんって言うんだったかな?怒られてしまったよ」
そう言って、総司は何もかも自分の運命を消化したかのように笑う。
「総司……」
「だけど看護婦さんに話をしたら、僕はまだ一か月はこの場所から出られない。
だから、お願いがあるんだ。
瑠花、この世界が知る僕たちのことを教えてくれないか?
この場所はとても退屈だから……、書物でも読まないと時間が流れないよ」
そう言って、総司はベッドの上で伸びをした。
「わかった。
私が持ってる新選組の本、今度持ってくる。
永倉さんが書いた本もあるんだよ」
「えっ?永倉さんの本……。それは読んでみたいような、読みたくないような」
「ふふふっ」
久しぶりに病室に、総司と私の笑い声が木霊す。
こんな風に笑うのが随分久しぶりのような気がする。
「山崎君は?
確か、こっちに来たんだよね」
総司の言葉に、他の病院で入院している山崎さんのことを思いだす。
あの神社で救急搬送されて銃弾を取り除く手術をした。
あれから数日、山崎さんの意識は戻ったものの、
幕末の時代で過ごした記憶は何一つ残ってなくて、
私の存在すらも認識してなかった。
「山崎さん、意識は戻ったの。
意識は戻ったけど、私の存在も、幕末で過ごした記憶も覚えてない。
自分の名前すらも言えなかったから。
多分……総司のことも……」
「そう……なんだ」
私も総司も暫く黙り込んでしまって、病室内に沈黙が走る。
「山崎君はどうするの?」
「花桜のお祖父ちゃんがお世話するってさ」
「山波の?」
「山波のって、今の総司にとってもお祖父ちゃんだけどね」
「あっ、そうだった……。
その感覚だけは一か月過ごしてもまだ慣れないなー」
「私たちも幕末に行ったとき、慣れるまでが大変だったんだから。
さて、また明日来るね。
そろそろ面会時間が終わっちゃうから。
今度来るときは、新選組が書かれた本をいろいろと持ってくるよ」
「うん。
瑠花も気を付けて」
「じゃあねー」
ドアを開けて出ようとしたのと同時に、
看護婦さんが入れ替わるように総司の病室へと入っていた。