優勝者の欄には見知らぬ名前が記されていた。
敬里としては、総司がこの世界にいる。
だから存在が認識されているの?
だけど花桜も舞もこの世界には今は存在していない。
だから……近しいもの以外は、その存在がないことになってるの?
幕末から帰ってきてから、一か月近くたってようやく気が付くことが出来た現実だった。
それは受け入れようとしても、すぐには消化できなくて、慌てて新聞を片付けると、
図書館を逃げるように走り出して総司の入院する病院へと駆け出した。
受付で呼吸を整えながら、面会の申し込みをして、いつものようにマスクやガウンを身に着けて病室へと踏み入る。
総司はベッドの上で、最初のころとは違って随分と落ち着いて過ごしているように見えた。
「瑠花?」
その声に私はずっと我慢していた涙腺が崩壊して、
涙と共に総司の傍へと駆け寄って抱き着いた。
「瑠花?」
再び私の名を呼ぶ総司の声。
だけどその後、静かに背中へと腕を回して私の背をさする。
「瑠花、何があったの?」
総司のその言葉に、私は掌で涙を拭きとって、
まっすぐに総司を見つめようと努力した。
そんな私の前に、ティッシュボックスを差し出してくれる。
差し出されたボックスから、ティッシュを抜き取ると、
目元にあてて涙をふき取った。
「今日、学校が始まったの。
それで学校に行って初めて気が付いた。
花桜と舞の存在が、この世界から消えてしまってる。
敬里の存在はちゃんとあるんだよ。
今も家族からしばらく欠席する連絡があったって。
私……、花桜の家族も私の家族も、花桜のことを認識してるから、
他の皆も大丈夫なんだって思いこんでた。
私たちが幕末に行く直前にあった高校総体の試合結果も、
男子は変わってないのに、女子は変わってた。
花桜と舞が優勝と準優勝なのに、そこに名前がなかったの」
一気に総司に吐き出して、溜息をついた。
「山波と加賀の存在がそんな風になってたんだね。
瑠花は、さぞ驚いたよね。
そんな瑠花をもう少し驚かせてしまうかもしれないけど、
僕の話も聞いてくれるかな?」
総司がそう言うと、私は頷いた。
「ここに来た頃から、不思議な感覚はあったんだ。
僕はね、瑠花たちの住んでいた、芹沢さんの言う月の世界に来てるんだよね。
そしてこの世界の山波敬里って言う山波の従兄弟の体に宿ってる。
認識としてはこれでいいんだよね」
「うん。
総司は、この世界では沖田総司ではなく山波敬里で間違いないよ」
「その事実を受け止めるのに、かなり時間がかかってしまったね。
だけどそれと同時に、僕の身には不思議なことが起こってた。
目を閉じて眠るたびに懐かしい、幕末の皆の夢を見るんだ。
今、近藤さんたちは鳥羽伏見の戦いに敗北して、江戸に船で向かったんだよ。
そして上野で上様の警護を任されてる。
今日の夢では、近藤さんの口から甲府城攻略の話が出てた」
総司が話したそれは、今日、今から総司に伝えようとしていた話で、
まだ知らない歴史を、総司は鏡が映し出す過去を見てきたかのように話す。