とうとう二学期の始業式が始まった。
花桜たちがいまだ帰らぬ現代で、私一人いつもの生活が始まる。


「ごきげんよう」

通いなれた校門の前、教師でもあるシスターに挨拶をしてはいる校内。
その隣に、当然ながら花桜の存在はいない。

一学期の終業式に座っていたままの、教室の自分の席に着席して、
朝のショートホームルームを待つ。

だけどそこで、私の中で違和感が存在する。

花桜の座席はそこに存在するのに、花桜を気に掛けるクラスメイトはいない。
その疑問は出席簿を読み上げだしたときに、確信へと変わった。

教師が呼ぶクラス全員の名前に「山波花桜」。
親友の名は存在しなかった。

何故?
どうして?

私の両親も、花桜の家族も、花桜のことは認識してた。

だけどここにきて、学校の中においての花桜の存在は透明人間のように皆の記憶からすっぽ抜けている気がする。


不安のまま始業式を早々に終えると、すがるような気持ちで舞や敬里が通う藤宮学院へと急いだ。

始業式の今日は当然ながら生徒たちの人数はまばらになってたけど、
私は校門の方へと急いだ。

校舎の中に入るには部外者の私は、門の外からちらちらと中の様子を伺う。
すると不審者に思われたのか、中から学校の関係者らしい人が私の方へと歩いてきた。


「こんにちは。
 突然申し訳ありません。私、聖フローシア学院に通う岩倉瑠花と申します。

 こちらに山波敬里さん、加賀舞さんが通学していると思うのですが、
 今日、始業式の後にこちらで会うことになっていたのですが、
 私が携帯電話を忘れてしまって連絡することが出来ません。

 お手数ですが、連絡していただくことは可能でしょうか?」


近づいてきた男性に深々とお辞儀をしながら話しかける。

「聖フローシアの制服を見かけたもので気になって様子を見に来たら、
 岩倉さんでしたか。確か剣道の交流試合の際には、何度かお会いしていますね。
 藤宮学院高等部剣道部顧問の長谷(はせ)です」

「私は剣道部の関係者というわけではないのですが、親友や、
 先ほどの山波敬里君や、加賀舞さんが剣道をされているので、
 いつも試合の際には応援にお邪魔させて頂いていました」

「そうでしたか。
 詳しい話までは出来かねますが山波敬里は暫く欠席の旨、家族の方から連絡がありました。
 山波に関しては家にでも連絡してみてください。
 もう一人、加賀という生徒は当校の生徒でしょうか?

 剣道ということでしたが、当校の女生徒に加賀舞と言うものはおりません。
 どこか別の学校の生徒さんと勘違いしてませんか?」


その言葉に私は長谷先生にお辞儀をすると、その場を離れて図書館へと向かった。
遡るのは図書館で保管されている新聞。

高校総体の成績表を記しているはずの新聞を手に取って、
机の上で広げる。

細かい字を指先で辿るようにして読んでいくものの、
男子生徒の成績には山波敬里の名は記されているけど、
あれほど盛り上がった決勝戦にもかかわらず、花桜と舞の話題には触れられてない。