目が覚めたのは、見知らぬ布団の中。
「あっ、舞、目が覚めたの?
おはよ」
そう声をかけたのは花桜。
「布団でゆっくりと眠るなんて久しぶりだよね。
この場所は、昨日、斎藤さんが案内してくれたの。
当面の間、私と花桜が生活する長屋だって。
新しい着物とか、当面の生活に必要なものも預かったんだ」
「花桜……敬里は?」
「あぁ、あいつは医学所。
もうあのバカ、熱出して寝込んでるってさ。
まぁ、今日もお見舞いに顔くらいは出してやろうとは思ってるの。
でもその前に、舞に朝御飯食べて欲しいじゃん」
そう言って花桜は私のそばに、芋汁を椀にいれて運んでくる。
「はい」
一つは私の手に持たせて、
再び炊事場から、もう一つのお椀を手にして戻ってきて、私の向かい側へと腰を下ろした。
「食べよっか。いただきます」
「いただきます」
花桜に続いて、手を合わせて声を出してから、
お箸を使って口元へとゆっくりと運んだ。
寒い日に体がほっとするぬくもり。
「美味しい。花桜」
「よかった。
食べ終わったら、お湯を沸かしてるから体を手拭いで拭いちゃいなよ。
さっぱりするよ」
そう言った花桜をよく見ると、もう山南さんの羽織も聖フローシアの制服も身に着けてない。
「花桜、制服と羽織は?」
「もう散々な状態。
どうしよっかなー、向こうの世界に戻ったら、お母さんにめちゃくちゃ怒られそうなんだけど、
幕末で破ったなんて言えないよね。
だけどボロボロになっちゃったけど捨てるなんて出来ないから、
出来るだけ洗って、繕えるところは繕って大切に持ってたいとは思ってる」
そう言って、花桜は今は部屋の片隅に干してある制服と羽織へ視線を移す。
山崎さんが居なくなって、扉が開いたのは確か。
彼が亡くなったのか、向こうにワープしたのかは私にもわからない。
だけど今まで花桜の傍で、暖かく包んでいたその存在は今はいない。
それでも花桜は前に歩き出してる。
だから私も、この先、何があっても、自分の決意から逃げることなんて許されない。
それだけは決して変えることの出来ない思い。
自分に何度も言い聞かせると、私は芋汁を口の中に流し込んで「ごちそうさまでした」っと
花桜に声をかける。
用意してくれたお湯を手拭いに浸して、
泥や血を含む汚れをゆっくりと拭っていくたびに、心にわだかまるモヤモヤも少しずつ晴れていく。
さっぱりとした気持ちで真新しい着物に袖を通すと、
洗い物を終えた花桜と共に、敬里が療養する医学所へと、長屋から歩いて向かう。
医学所の一室。
敬里は別の偽名を記されて眠っていた。
顔を赤らめながら眠ってるアイツの額に、そっと手を伸ばす。
すると閉じられていたアイツの目がゆっくりと開いた。
「って、来てたのかよ。
少しくらい、お前らはゆっくりしてろよ」
「うるさい、敬里。
病人はおとなしく寝てなよ。
風邪ひくなんて、ばっかじゃないの?
バカは風邪ひかないんじゃなかったの?」
って花桜は、顔を合わせたとたんに憎まれ口叩いてる。
ずっと昔からの、この二人のコミュニケーションはずっとこんな感じだった。