「舞……」


「花桜、泣きたいときはいっぱい泣いたらいい。
 だけど……これ以上、花桜自身を責めないで。

 山崎さんが自分のすべてをかけて、助けた大切な存在なんだよ。
 だからその思いを無駄にすることなく、いっぱい受け止めて、生き抜いて。

 生きて生きて生き抜いて、ちゃんと何時か、現代に帰って」




現代に帰って……。


そうやって続けた舞の言葉に、違和感を感じながら私はゆっくりと頷いた。





「山波、加賀、入るよ」



沖田さんモードの口調で声をかけた敬里は、
何かを手にして傍へと近づいてくる。



「寒くないか?
 そんなに多くはないけど、あたたかい白湯を貰って来た」


そう言って私たちの前に差し出す。



順番に手を伸ばして、湯飲みを持つと一口、また一口と口に含んでは飲み込んでいく。




「こんな時にカイロでもあったら暖かいのにな」


そう言って呟く敬里の言葉に、私たち二人も頷いた。




「順調に船が進めば、明日には陸にあがれるらしいぞ。
 さっき、榎本さんがそう言ってたのを聞いた」


「そっかー。
 これ以上、天気が荒れないのを祈るよ」

「だよなぁー。

 さて……っと。
 僕はやるべきことをするために、近藤さんたちの元に戻ります。

 山波と加賀の二人も落ち着き次第、
 負傷している隊士たちの介助をお願いしますよ」


あっという間に、沖田さんが乗り移ったかのような口調に変わった敬里は、
湯飲みを回収して、外へと出て行った。




「って言うか、あの変わり身の早さ、やばいよね。
 思わず吹き出しそうになっちゃったよ」

「私も同感」



舞の言葉に激しく頷くとずっと手に握りしめていた簪を、
再び髪の毛へとゆっくり差し込んだ。





丞……、ちゃんとこの場所で私の行く末を見守ってて。




道に迷う時もあるかも知れないけどちゃんと私は私らしく、
貴方が繋いでくれた命を守っていきたいって思えたから……。 



だから……いつも傍で、私を見守ってて。