「簪で命を絶てばって昨日は思ってたの。
だけど……敬里に自分の気持ちを吐き出してる間に、
簪に託された想いを思い出したよ。
この簪で自分の命を絶てるわけないじゃん。
丞が私を守りたいって想いを託して、手にしてくれて、一生添い遂げるって……告白してくれた宝物だよ」
「だったら、何してたのよ。
あんなふうに切っ先を喉元に近づけて」
「両手で簪を抱きしめて、頬にそっと当てたら……
少しは丞を感じられないかなーっとか、どうしたら烝をいっぱい感じて、私を満たせるかなって。
ねぇ……舞。
山南さんが亡くなった時も、ずっと辛かったよ。
だけど……今は、その時とはまた違った痛みが私を締め付けるの。
丞を殺したのは私。
大切な存在を私自身の手で、手の届かない遠いところにやってしまったの。
どうしたら、私は私自身を許せる?
わかんないよ……」
そう。
私を助けようとして丞は大怪我をして……そのまま命を落とすことになった。
その事実は、どれだけ目を背けようとしても変わることはない。
丞の居ない世界。
大切な人、支えてくれる人が居なくなったこの世界で、
今の私はどうやって生き抜くことが出来るんだろう?
そんな不安だけが、私自身の心を押しつぶしていく。
「ねぇ、私……山崎さんは大切な花桜を全力で守ることが出来て、
喜んでると思うよ。
ただ一つ、悲しんでるとしたら、花桜を遺して逝ってしまったことと……、
最愛の花桜が今も、悲しみ続けてること。
私もさぁ、大好きな人と死に別れてきたんだ。
私、暫く別行動してたでしょ。
その時にずっと一緒に居たのは、高杉晋作なの。
私が最初に降り立って助けてもらったときに出会った人で、
お兄ちゃんみたいな存在だった。
私の中には、もう一人の別の私が居て……その私が助けて貰ったのが縁だったのかな。
自分で話してても、ぐちゃぐちゃでうまく話せないの。
ただ私の存在は、この世界に居たもう一人の私の存在を消してしまったのは確かなの。
だから花桜のそれとは全然違うけど、私も私の存在が居なかったら誰かの命を奪うことはなかったかもしれないって言うのは、
なんとなくわかる気がするんだ。
だけどずっと、その感情に呑まれそうになって苦しんでた時に、
晋兄は言ってくれたの。
『全てが終わったら、泣き虫舞を俺と義助で迎えに行ってやる。
だから今は行けっ!!
加賀舞っ!! その手に運命を掴みとれ』って。
晋兄も義助も、傍に居なくてもずっと見守ってくれて……その時が来たら、
私を迎えに来てくれるって言ってくれた。
その言葉がね、私の心の中にどんだけ辛いことがあっても、灯として在り続けるから
今の私は前を向いて歩いていけるの。
どれだけ罪悪感を感じようとも、その言葉を支えに歩き続けることが出来るの。
だから花桜は、その簪を支えに歩き続けることは出来ない?
山崎さんは、その簪に魂を移して、ずっと花桜を見守ってくれてると思うよ」
そう言ってくれた舞の言葉を聞いていると、
今度は悲しみだけじゃなくて、あたたかい涙がスーっと頬を伝い落ちていく。



