「その簪はアイツから貰ったんだろ。
その簪に意味はあるのか?」
「これは丞が広島での仕事から瑠花と一緒に帰って来た時に貰ったの。
螺鈿細工が綺麗でしょ。
簪に託された意味を教えてくれたのは、瑠花だったの。
簪には、お前を守るとか、一生添い遂げるとか、
そんな意味が込められてるんだって。
だけど……反則だよ。
私、丞の命と引き換えに守られたくなかった。
……丞が居なかったら、今頃、海に葬られてるのは私だったかもしれない。
ううん……この船に乗ることも、敬里にもう一度会うことも叶わなかった。
簪に託した思いを、誰が実行してほしいって思うのよ。
ずっと守ってくれた。
守るって、傍に居てくれることが一番重要でしょ。
それ以外に何があるって言うのよ」
涙が止まらなくなった私は、
敬里の胸をドンドン叩くようにして、心の中の想いを吐き出し続けて、
気が付いたら眠ってしまっていたみたいだった。
次に目が覚めた時には船の揺れも穏やかになっているのが感じられた。
布団や上着がかけられているけど寒さが底冷えしている部屋で、
私は体を起こして体育座りをする。
眠っていた傍には、丞がくれた螺鈿細工が敬里のハンカチらしい上にそっと置かれていた。
「おはよう……丞」
そっと簪を手に取って声をかけると、
ゆっくりとその簪の切っ先を、喉元へと近づける。
「あれっ、起きたの?花桜」
顔を見せた舞が慌てて駆け寄ってくる。
「何してんの?」
私の持つ手ごと包み込んで、喉元へと近づけた簪をゆっくりと下におろさせる。
「あっ、ごめん。
大丈夫……。そんなことはしないから……。
ううん、出来ないから」
「出来ない?」
出来ないと言った言葉に安堵したのか、私の手から自分の手を離すと、
ゆっくりと私の言葉を復唱するように問い直す。