「お世話になっています。
 山波です」


そう看護師さんに声をかけると、
看護師さんは私たちにマスクを渡す。


手渡されたマスクをつけて、看護師さんの後を歩いていく。


足で何処かのスイッチを抑えてドアが開くと、
そこは閉ざされた空間だった。




「瑠花さん、ここは結核病棟じゃよ」



結核?
その言葉に私は、ずっと気にかかってる総司の存在を思い浮かべる。



「手渡されたマスクはなんか特殊なマスクらしくて、
 結核菌を通さないようになってるそうだ。

 この結核病棟自体も、菌が外に出て行かない作りになっているそうだ」



お祖父さんがそうやって私に説明してくれた。



「はい、山波さん。
 敬里さんですが今朝からこちらの部屋に病室が変わったんですよ」



なんだ……敬里かっ……。
えっ、でもさっき花桜の家で、お祖父さんは、お祖母さんに花桜と敬里を頼むって言ってた。




「それでは面会は15分以内でお願いします」


そう言って、ベッドに眠る人の何かを確認して病室を出ていく看護師さん。




「ほらっ、瑠花さん……中へどうぞ。
 彼が君に会わせたかった人じゃよ」




お祖父さんが差し出してくれた手を取って、
背中を押されるように病室へと入って、ベッドで眠り続ける人を覗き込む。





嘘……、総司……。




溢れだす涙を拭うこともしないで、
私は血色の悪い総司の顔に手を触れる。



私が触れたことに反応したのか、
総司の瞼が震えて、その瞳が開かれる。




「……瑠花……」

「総司、良かった。
 会いたかった」

「ここは?」

「ここは私が住んでいる世界。
 鴨ちゃんが来たがってた、月の世界。

 月の世界の療養所だよ。
 この世界では、病院って言うの」

「……びょういん……」



それだけ会話すると総司の目は再び閉じられて寝息が聞こえる。