えっ?




一人目……二人目……っと続いていく板に、
固まって動けないでいた体を必死に、動かそうと念じる。




「丞っ!!」




最後の一枚が海へと落とされようとした時、
私はその場所へと走りだして、板を掴み取ろうと手を伸ばすものの、
後僅か及ばず、板はそのまま海へと滑り落ちてしまった。



その最中、突如、雷鳴が轟く。




「山波、何やってるの?
 そんなことして山崎君が喜ぶと思ってる?」



頭上から降り注いだその言葉は、
私が知る敬里のものじゃなくて、あの日敬里と一緒に消えた沖田さんの言葉のように感じた。




「皆、天気が荒れ始めた。
 全員、船室へと戻れ」



土方さんが隊士たちを促すことが聞こえると、
私は敬里に支えられる形で、船室へと連れられた。



「花桜、ったく何やってんだよ。
 アイツと一緒に海に落ちる気だったのかよ。
 あっちの家族を放り出して……」


船室の一角、敬里が過ごすその場所で小さく告げられる言葉。


「敬里にはわかんないよっ。
 アンタみたいに、こっちに来てすぐに居場所があって必要とされたアンタには、
 私たちの苦労なんてわかんないよ。

 丞は……最初に私を助けてくれて、私に居場所を作ってくれて、
 その後も、ずっと私を支えてくれたの。

 この簪も丞がお土産にくれたもの」


そう言って髪から抜き取ると、両手で握りしめる。


この簪で後を追いかけたら、
私は貴方のいる場所へと行けるの?



ううん、だけど……そんなの望むあの人じゃないのは、
私が一番知ってる。




「聞いてやるよ。
 吐き出せよ。

 お前の弱音。
 今だけは、沖田総司じゃなくて、山波敬里として受け止めてやるよ。


敬里は私の隣に腰を下ろすと、
そう言ってまっすぐに向き直った。