「花桜。
 今、敬里にきいた……」


小さく花桜に話しけるものの、花桜は顔を上げることもなく膝を抱えたまま俯いていた。


「山崎さんは?」
そう問いかけると、花桜は「あっち」とほとんど聞こえないような小さな声で呟いた。


花桜が告げた方向へと視線を向けると、新選組の隊士たちが中心となって何かの準備を始めてた。


確か……和歌山沖で、水葬されるんだっけ?
瑠花ほどじゃないけど、うる覚えの記憶を辿る。



「集まってくれ。
 今日までに亡くなった仲間たちの弔いを始める」



土方さんの声の後、動ける隊士たちは動けないものに手を貸しながら、
一斉に甲板の方へと移動を始めた。

ぐるぐると布に巻かれた遺体と思われるものを、板にくくりつけて並べられている。


肩を負傷している近藤さんも、その場には立ち会っていて、その隣には敬里が沖田総司として寄り添っていた。



私も花桜を抱えるように支えて、甲板へと出る。
花桜の目は、今も虚ろのままで、現実をまだ受け止めきれてないみたいだった。



近藤さんの挨拶から始まって、厳かに行われる早々の儀式。
命を落とした隊士の名前と感謝の言葉が紡がれていく。



だけどさっきまでお天気だった空が、今は曇りを帯びてきてやがて波が高くなり始める。


隊士たちの悲しみの呼応するかのように、
その姿を変え始める空と海。


そしてお別れの時。

板にくくりつけた隊士たちを船から海へと弔う際に、
今までうつ向いたまま固まっていた花桜が、山崎さんの傍へと走りだした。


慌てて花桜の後を追いかけて、その腕を掴み取ろうとするものの、
私の手は後僅かで届かない。


「丞っ!!」


花桜まで一緒に落ちちゃったかもっと目を閉じた瞬間、
「山波、何やってるの?
 そんなことして山崎君が喜ぶと思ってる?」っとあの人を連想するように、
敬里の声が聞こえる。


その声にホッとしたのも束の間、突然、空が割れて雷鳴が轟いた。



「皆、天気が荒れ始めた。
 全員、船室へと戻れ」



土方さんの声に、再び参列していた隊士たちは船室へと移動を始めた。



花桜は敬里がそのまま船室へと連れていく。
私はそのまま中すぐに入る気にならず、海面をじっと見つめていた。



さっきの雷鳴……。
水葬の最中、もしかしたらあっちの世界へと消えたのかもしれない。