「舞、こっち。

 そっちの隊士さん、熱が強すぎて汗が酷いの。
 体を拭くの手伝って」


そう言って、花桜は私に手ぬぐいを手渡す。

手渡されたままに、桶に手を付けて手ぬぐいを濡らすと、
私は袖をめくって、ゆっくりと手ぬぐいで汗を拭い出した。



「あっ……有難うございます……」



絞り出すように荒い呼吸の中、目を開けて声を出す隊士。
そして彼は再び、力尽きたように眠りの中へと誘われていく。


そんな彼の汗を額から、腕、そして赤く染まった腹部に巻かれている包帯の周辺へと手ぬぐいを進めて
吹き上げて、足を最後に拭き上げた。


そして最後に、濡れた手ぬぐいを脇の下へと挟ませる。



そんな夜、徳川本陣からの伝令が上様からのお言葉を運んできた。


徳川の御威光命の上層部は、すぐさまに兵士たちを集めて恭しく伝達文を読み上げる。





我が軍に勝利の兆し有。
千兵が最後の一兵になろうとも、決して退いてはならぬ。






その言葉に価値なんてない。
意味なんてない。

アイツは徳川の為に戦わざるを得ない兵士たちを残して、
江戸へととっとと逃げ帰ってる。


なのに、そんな言葉に踊らされた徳川の御威光信者たちは、
咽び【むせび】泣きながら、『オレたちには上様がついてる』っと
口々に声をそろえて、再び戦いの世界へと身を投じて行く。



救護室での手当を終えると、
仮初の言葉に、希望を見た兵士たちの声をただ、心に刻み込むように見つめながら
私は部屋を後にして、一人静かに時間を過ごせる場所へと移動した。



ざわざわと落ち着かない心。

落ち着かない心を沈ませたくて、
一人、素振りを繰り返してみるものの落ち着く気配はない。