崩れ落ちる体を抱き留めたくて、飛び出そうとする私を制する強い腕。



「花桜ちゃん、今はあかん。
 井上さんのとこに行きたいのは誰だって一緒や。

 でも今行ったら、井上さんの想いを踏みにじることになる。
 だから辛抱してや」




そう言って丞は私を抱きよせて、守る様に新政府軍と距離をとることを優先させた。




逃げ続けて身を潜めたお寺。


そのお寺の境内で、何時ものように負傷した隊士たちの手当てを続けていた私たちのところに、
「組長」「井上さん」っと次々に声が広がっていく。

視線を向けた時、誰かがあの場所へと迎えに行ったのか、板に乗せて運ばれてきた井上さんの姿が視界に入った。



全身、血だらけでもう息もしていない。


「お前ら、別れをゆっくり惜しんでる時間はない。
 すぐに埋葬して、この場を離れる。

 動けるやつは、負傷している奴の手伝いをしてやれ」



土方さんが告げると、井上さんは何処かへとそのまま運ばれていった。
私も手当てを終えて、救護班の隊士に一礼すると、そのまま井上さんが運ばれていった場所へと向かう。


そこには原田さんや永倉さんたちによって縦に長く穴が掘られていて、
井上さんの亡骸は、その穴の中へと静かに埋葬された。


愛刀が突き刺されたその埋葬地を見つめながら、
皆が静かに手を合わせる。




そんな時でも、今も銃砲の音は世界に轟き続けていた。




守りたい。



皆が守ろうとしていた大切なこの世界を守りたい。




その思いが強くなればなるほど、
自分の無力さを実感するしかなかった。