「花桜、新政府の銃と、徳川の銃。どっちが性能いいと思う?」

「えっ?使ってる銃って違うの?」


驚いたように花桜は私を見つめる。


「エンフィールド・ミニエー・シャスポー。
 他はなんだったかな……、戊辰戦争って何種類もの銃が使われてるの。

 最新兵器は薩摩だけが持ってたって思われがちかも知れないけど、
 こっちにもあったの。向こうにはなくて、こっちにあった銃はシャスポーって言うフランス製の銃。

 この銃は弾の装填時間が、後ろからだから早いの。
 エンフィールド銃が一回装填してる間に、四回も装填できちゃう優れものだって知ってた?

 向こうに居た時に、テレビでみた受け売りだけどね。

 確かにあっちが投入してきた銃は、飛距離も威力も強いよ。
 だから……統制さえ、命令系統さえしっかりして、上が無能じゃなければチャンスはあった。

 何度も何度もチャンスはあるのに、なんであのバカ幕府はチャンスロスばかり平気でするんだろうね」



今、ここでチャンスをものにしたら、過去とは違った時代になってたかも知れない。


私はそんな悔しさに、憤りに、どうやって感情をぶつけていいかわからなくて、
傍にあった土壁に、拳を打ち付けた。


殴った衝撃を受けて、少し土壁が零れ落ちる。



「あぁ、可愛い二人が、そんなとこでなんちゅう会話しとるんや?
 物騒な会話なら、もっと小声でやりや。

 ここには、徳川の御威光を信じ切った魍魎がまだまだ居るんやで」


そんな言い方をしながら、突然現れたのは山崎さん。


「丞、隊士たちの手当ては?」

「あぁ、一通りは終わったで。
 んで様子見に来たら、花桜ちゃんたちの物騒な会話が聞こえてきたちゅうわけや」

「物騒な会話って、ただ私は思ったことを花桜に聞いてもらってただけ」

「まぁ、舞ちゃんや花桜ちゃんたちにしてみれば、軽い気持ちかもしれんけど、
 それだけじゃ終わらんこともあるっちゅうわけや。

 確かに話を聞くだけやったら、共感できる部分もある。
 けど、わいらは、今、精一杯出来ることを己自身の誠の中でやりきるだけや。

 どんだけ上がグタグタでどうしようもなくても、この誠だけは誰も変わらんのちゃうか?」


そう言って山崎さんは笑いかけた。