「花桜……」
「あぁ、これは丞が大袈裟なの。
少しね、刀で切りあったときにスーって。
でも深くはないから。神経も大丈夫だし」
そう言って花桜は、負傷している腕をぶんぶんと振り回した。
そんな花桜の仕草に思わず笑みを浮かべる。
「ったく、私の前でもそんなことしなくていいって」
「そんなことって、私に出来ることは敗北して暗くなりつつある隊士たちの不安とかを
取り除いてあげることだと思うから。
難しいけど、そういう役割って、しかめっ面してる鬼の副長さんよりも、
山南さんが生きてたらやってたんじゃないかなーって。
そう思ったら、今、私が出来る精一杯をやりたくて」
そうやって告げる花桜。
そんな花桜を見て、陣地で体を休める隊士たちの姿を見つめる。
疲れているのに、不安の中にあるはずなのに、
隊士たちは皆、「次も頑張ろう」とお互いに声を掛け合ってる。
お互いがお互いを労わりながら、
次の戦に、必死に備えようとしている。
最新兵器と最新兵器がぶつかり合う、この戦の中で、どうやって身を投じようかを必死に模索してる。
「舞は何を考えてたの?」
「花桜……、花桜は伏見からここまでの間に、私たちにどれだけのチャンスがあったと思う?」
そう……。
私の記憶が、嘉賀舞の物であることを知らなかった現代で、
歴史がそんな得意じゃない私が、必死に図書館に通って調べてたことがあった。
それはこの鳥羽伏見の戦いのこと。
あんなに戦力に差があったはずなのに、どうして徳川は負けてしまったのか。
徳川の敗因は何にあったのか……。
向こうに居る時、どうしてこんなことばかり調べているのか自分で自分がわからなかった。
だけど今は、あれは嘉賀舞ちゃんの魂が私を突き動かしていたような、そんな気がしてる。
「チャンス……」
花桜は小さく言葉を呟いて、じっと考え混んでいるみたいだった。
「えっと……統率?」
考えた後、花桜は小さく呟いた。
「統率……。そうだね。花桜も私と同じように思うんだ」
「うん。
それは感じてる。
私たちは、土方さんがまとめてくれてる。
各部隊、各部隊では指揮官が居て、まとまってるところはまとまってる気がするけど、
その指揮官さんが、薩摩の狙撃隊に狙われてるって話を聞いた。
指揮官さんがいなくなった部隊は、もう全く戦えない。
かわりに統制出来る存在なんていない」
「そうだね。他には?」
「えっ?他?
他かぁー」
そう言うと花桜は再び、考え始めたみたいだった。



