「あっ、花桜、来てくれたんだ。
 敬丞も」


山崎さんは、どんなふうに動くのかを気にかけてたけど、
私以外には記憶が戻ったことは内緒にする方向なのか、
さっきまでの敬丞としての山崎さん口調で、会話を続ける。


「あっ、おはよう花桜」

「おはよう、瑠花」

「もう体は平気なの?
 帰ってきて三日間ほど、眠りっぱなしだったでしょ。
 花桜のお祖父さまが心配して、パパに電話してきたんだよ」

「あぁ、そう言うことかぁー。
 そんなこと知らなかったから普通に起きたら、
 凄くびっくりされちゃった。

 もう全快、全快。
 ちゃんと来週から学校にも復帰するわよ」

「なら、放課後はみっちりと私が勉強のサポートしてあげるよ。
 皆、もうすぐ進路をはっきりと決める時期になってるんだから」



そんな何気ない会話が懐かしくも楽しく感じる今。


病棟の事務員さんが、敬里の請求書を持ってくる。


その紙面に書かれている金額は、
お祖父ちゃんから預かって来た金額には届かない。



「あれっ?
 請求金額間違ってませんか?

 祖父からはもう少し預かってきてるのですが……」

「こちらの特別室の使用料は、
 この度の請求には入っておりません。

 其の為、こちらの請求金額で間違いございませんので
 確かに頂戴いたしました。

 後ほど、岩倉先生が顔を出される予定です。
 今暫く、こちらでお待ちください」


事務員さんはそう言うと、 
一礼して病室を出ていった。


「瑠花……」

「大丈夫。
 パパに甘えておいて」


私の気持ちと裏腹に、瑠花はにっこりと笑ったまま。


「遅くなってすまない」


ふいに病室に響く声は、瑠花のお父さん。


「お世話になりました」

「パパ、有難うvv
 今日、山波さんの家で総司の快気祝と、花桜のお帰りなさいパーティーするから」

「あぁ、仕事が終わったらパパも寄せて頂くよ。
 楽しんできなさい。

 花桜さん、近いうちに健康診断に。
 いろいろと長い時間あったみたいだからね。

 総司君、退院おめでとう。
 何かあったらいつでも頼っておいで」



瑠花のお父さんが、敬里ではなく『総司』として沖田さんを認識している現実。



「有難うございました」


総司は深々と、瑠花のお父さんに一礼した。



病棟の看護師さんたちにも見送られて、
私たちは賑やかに病院を後にした。