銃弾が何時発射されるかもしれない。
何時、殺されるかしれない。

本当は足がすくんで、泣き叫びたくなるように状態だと思うのに、
何故か妙に冷静で、現状を受け止めていた私がそこに居た。




「何者だ、貴様?」


問われた私はゆっくりと深呼吸をする。



「私は長州から、
 この地を訪ねてきたものです」


そう言って、銃口を向け続ける人たちの前へと姿をみせた。


「長州?
 何故、この地を訪ねる?」


戸惑うような声と、私の言動を疑う声が響く。



「私は……高杉晋作に縁があるもの」



晋兄の名前が通用するかどうかなんて、
ギャンブルでしかないのはわかってる。


だけど……新政府軍に長州の人が居たら、
この名前に誰かは反応してくれるはず。



そんな微かな願いを込めて。



「……アンタ戦女神だ。
 高杉さんと一緒に居た、戦女神だ……」


何処からともなく誰かが呟いたその言葉に、
周囲の人たちはざわざわとしながらも、
次々と戦女神と呼ばれていた、あの時代を思い出して貰えた。


「覚えてくださっていて感謝します。

 私は長州で晋兄と共に行動をともしていた舞と言うものです。
 私の身分に不明があれば、高杉晋作の妻、雅姉様に問い合わせを。

 晋兄が志半ばで倒れ、見ることが出来なくなった先の未来を
 見守るためにこの場所へ上陸しました。

 ただ、この先の行く末を案じる傍観者として、
 私がこの場所に居続けることをお許しください」


そう言って私は兵士たちの前でゆっくりと頭を垂れた。



「あの高杉さんと、私たちを引っ張ってくれた戦女神に、
 手をかけたなら高杉さんに怒られてしまいます。

 舞さん、銃口を向けて怖い思いをさせました。

 実は今、旧幕府方とないないに、降伏の話し合いが
 続けられております。

 降伏が宣言されれば、これ以上の戦にはなりません。
 
 高杉さんが生きていたら、
 どんなふうに感じたんでしょうね」



そう言いながら兵士たちは、
私を解放してくれた。




この先、弁天台場までの道は、
新政府軍で囲いつくしていること。



ただ一か所だけ、
今も手薄になっている場所があると言うこと。




私は新政府軍として戦ってる長州の人たちに
お礼を告げて教えて貰った手薄なルートを一人目指す。




ひたすら、花桜と再会できることを信じて。



獣道を走り抜け、
旧な岩場に足をとられそうになりながらも、
ただ真っすぐにその場所を目指し続ける。



今、私が走り続けるこの場所で、
舞ちゃんの記憶は役立たない。


ただ先ほど、長州の人たちが教えてくれた
その情報だけが私が今、信じるべきもの。


ただひたすらに走り抜けた道は、
本当に人の気配がしなかった。


ただ神様が指し示してくれるような木漏れ日の光が、
照らす幻想的な世界。



その光が薄らいだ時、
私はピタリとその歩みを止めた。





えっ?

誰かいる……。






思わず、
敬里と晋兄に助けを求めるように、
私は胸の前に手を染めながら、
茂みの向こうを覗き込む。