ねぇ……舞ちゃん、
これで良かったの?



これで花桜をちゃんと、
瑠花が待つ向こうへ帰らせて上げれる?



私は心の中、
舞ちゃんに問いかける。


舞ちゃんは、
少し嬉しそうに笑っているように感じた。



花桜は土方さんの服を脱がせて、
止血を必死にしているみたいで、
携帯していた巾着の中から真っ白い晒を、
銃創へと押し当てる。


真っ白な布が、一瞬にして赤く染まっていく様子に、
花桜は竦み(すくみ)そうになる体を必死に
保とうと頑張っているように思えた。



今の花桜は土方さんの傷口しか見えてないみたいで、
外に意識を向ける事が出来ていない。


私が出来ることは、
花桜が出来ない不足を補うこと。


私は一人、周辺へと意識を伸ばし続ける。


木々のざわめき。
風が頬を撫でる感触。

それと共に火薬の匂いが運ばれてくる。

耳を澄ませると規則正しく野を踏みしめ隊列を
くみながら歩いているのか、小枝が折れるような音が届く。




「花桜っ、花桜っ、
 動けそうなら土方さんをつれて茂みへ。

 誰か来てるっ。

 弁天台場で」



花桜と土方さんの最期になるであろう時間を
邪魔しちゃいけない。


花桜なら……あの時に舞ちゃんに出来なかったそれを、
やり遂げてくれると信じているから。


そんな花桜の為に私が出来ること。
それは新政府軍の気を私に引き付ける事。


私は口早に花桜に告げると、
馬を反対側へと走らせた。


土方さんと花桜の傍に新政府軍に行かせない。



花桜を向こうに帰らせるのが、
私の役割だから。



わざと派手な音を出しながら、
山道を駆け抜ける。




敬里、見てて。

晋兄、力を貸して。
花桜を……大切な親友を私のこの手で守らせて。





祈る思いで馬を走らせ続けた。





ふと次の瞬間、銃声が空間に轟く。


乗っていた馬が銃声に驚いて、
私をふり落して何処かへ行ってしまった。




溜息と共に、ゆっくりと立ち上がろうとした時
「誰かいるのか?」っという声と共に、
幾つもの銃口が私に向けられているのがわかった。




生唾を飲み込みながら、
この場所をどうやって切り抜けて花桜たちの傍へ行こうか、
考えてる私がいる。


こうやって私に銃口が向けられているって言うことは、
花桜たちは見つかっていないと思えたから。