通いなれた山波の家。

「こんにちは。岩倉です」

玄関でチャイムを押して告げると、
山崎さんがすぐに出迎えてくれた。



「瑠花さん、お忙しいところ有難うございます。
 師匠と大奥様は、鏡の部屋にいらっしゃいます」


そう言って山崎さんは私を、
家の中へと招き入れてくれた。


「瑠花さんが到着されました」



そう言って部屋の中に山崎さんが声をかける。

すると普段は、その部屋に滅多にいないはずの
花桜の両親までもが、鏡を見守っていた。



「瑠花さん、大切な授業中に申し訳なかったね。
 
 せめて放課後まで待って欲しいと望みながらも、
 そこまでは持たぬように思えてな。

 お父上に連絡させて頂いた次第だ」




そう言ってお祖父さまは私に説明すると、
すぐに視線を鏡へと映し出した。



そこには土方さんと、舞と花桜を乗せた馬が、
山道をかけている様子が映し出されていた。






えっ?





鏡が映し出す土方さんの表情は、
真っすぐに未来を見据えているように感じられて、
それに続く舞の顔は、ちょっと思いつめた様子で。


花桜はただただ不安そうに、
馬を操る舞にしがみつきながら揺られていた。




「弁天台場に向かっているのですか?」



その様子から、私はお祖父さまに訪ねる。



「そうなのかもしれんな。
 
 今朝方、ばあさんがな夢を見たんじゃ。
 花桜が叫びながらこっちの世界に戻って来る夢じゃったそうだ」




花桜が叫ぶ夢は私も見てる……。



そう思った瞬間、
鏡は土方さんの体が馬から崩れて落ちていくのがわかった。



あまりに一瞬のことで傍で見ているだけなのに、
頭が真っ白になった。



えっ?今?
覚悟はしてたけど、もう?


こんなに離れている私ですら、
えっ?て思うんだから、
ずっと傍に居る花桜は私以上に冷静に居られないはず。


思考が停止しそうになりそうな中、
何度か鏡の映像に意識を繋ぎとめて見つめ続けていた。

映像が映し出したときの、土方さんの落馬の瞬間が、
脳内でスローモーションで再生される。



ふいに、ハッと誰かが息をのんだような感覚が空間に広がって、
その音に反応するかのように、再び思考が働きだした。




画面の中の花桜は、
舞が手綱を握る馬の背から飛び降りて土方さんの方へと駆け寄っていく。


花桜の意識は土方さんにしか集中して居なくて、
馬の背から今も降りずにキョロキョロと周囲を見渡している舞は、
銃を構えた新政府軍がいないか警戒しているのかもしれない。




一本木関門。
その場所で土方さんは亡くなったと伝えられている一説。


『我、この柵にありて退くものを斬る』と馬上で告げて、
腹部に銃弾を受けて亡くなったとも、
銃弾を受けて即死だった記されていたものもあった。


かと思えば土方さんと共にいた大野右仲陸軍奉行添役の手記では、
海で攻撃をしていた榎本さんが率いる幡龍の砲撃が、官軍の『朝陽』を捉えたことがわかって、
勝機を確信したとも続けられていた気がする。