鉾とりて
月見るごとに おもふ哉
あすはかばねの
上に照かと





鉾を手にし、月をみあげるたびに思うんだ。
明日は屍(しかばね)の上に、
あの月光が降り注ぐのだろうか……。



そんな意味合いの句。



その句に触れた時、
何故か涙が止まらなくなった。



先の二つの句よりも、
私が一緒に見て来た土方さんに似てる気がして。


そして……、
それは花桜が考え方を変えてくれた土方さんな気がして。


死と言うものに美学を感じ、
ただ死に場所を求めて戦い続けたように感じていた鬼の副長。


その命が終わっても魂で俺は大切な人を守り続けるって、
そんな風に言っていても、
そこに自分の命を顧みることはなかったと思うんだ。



だけど最後の句は、
負け戦だと知っていても、自分の命の使い方は、
一つしなくて……その重みを受け止めながらも、
静かな死の近づきを受け止めているようで……。



私は……ポケットから取り出したメモ帳に、
そっと最後に出会った彼の辞世の句ほ書き留めた。



そして書庫から持ち出した本を棚へと戻し、
図書館をゆっくりと後にした。



土方さんの死。

それは一つのきっかけで、
歴史の大きな流れの中の小さな通過点でしかない。


でも花桜にとっては、
全ての役割を終えてこの世界に戻って来るキーワードで、
それと同時に、ずっと一緒にあの時代を過ごしてきた親友との、
別れの訪れを意味する。


そして……その真実を知った花桜が、
とりそうな選択も想像できるわけで私は現在(いま)で、
日々のルーティーンを繰り返しながらも、
その日がまだ来なければいいのに……っと目を背けそうになる私が居た。





その朝、夢の中で花桜が叫ぶ声が聞こえて、
目覚めが悪かった。

怠さが残る体をベットから起こして、
制服に袖を通すとママが作ったグリーンスムージーを飲み干して
フローシア登校した。


集中力が持続できないまま一限目の授業が終わりにかかった時、
教室のドアがノックされてシスターが顔をのぞかせる。



「岩倉瑠花、ご家族の方が迎えにいらしています。
 帰り支度をして早退してください」



そう告げられた私は不安に押しつぶされそうになりながら、
ゆっくりと椅子から立ち上がって重たい鞄を手にし、
教科書を片づけて教室を後にした。


「岩倉さん、お父様から先ほど学校に電話がありました。
 山波花桜さんのことで。

 山波さんが家の事情で二学期から長期休暇に入っていますが、
 彼女の身に何かあったのでしょうか?」


花桜のことを良く知るシスターが心配そうに気遣う。


「私も詳しくは存じません。

 ですが花桜は今年、山波家の道場の後継者問題と向き合う年だと聞いてました。
 だから、そう言った家の儀式と何か関係があるのかもしれません。

 彼女の一族は、新選組の山南敬助総長の縁を持つ一族ですから。

 シスター、もし宜しければ花桜の為に祈ってあげてください。
 彼女が無事に試練を乗り越えて、この学校に戻って来れるように。


 それでは、ごきげんよう」



校門の前のロータリーにはパパの車がとまっていて、
校門まで送ってくださったシスターに挨拶をして、
パパの車へと乗りこんだ。



「パパ……」

「今朝、山波さんから連絡を貰ったんだ。
 瑠花に鏡の前に来てほしいと……。

 学生の本分は勉強だよ。
 でも大切な人の為に、過ごせる時間も、
 人生を豊かにするためにはとても重要なことだとパパは思うんだ。

 パパは仕事があるから瑠花を送り届けたら、このまま病院に戻るよ。
 総司君のことはパパに任せて瑠花は、
 今、瑠花がしたいと思ったことをやり遂げなさい」



パパはそう言って私を山波の家に送り届けてくれた。