そう信じてる。


この戦の何処かで土方さんが亡くなることは、
未来から来た私には知っている情報で、
それが違えることはない。


そしてその時を迎えたら、
私は舞と二人、瑠花が待つ私たちの世界へと帰れると信じてる。


だけど此処まで、ずっと新選組の傍にいて、
いろんな覚悟を見守り続けて来た私だから、
土方さんがやがて迎えることになる『死』も、
尊い意味があるものだと思えるから。


だからその覚悟を見届ける。


それが山南さんや近藤さんから託された
私自身の役割だと今は感じているから。



「山波君、安心したまえ。
 土方君が守る二股口からの報告は良い報告ばかりだ。

 今日も、新政府軍が鈴を鳴らしながら近づいてきて、
 包囲されたと怯える兵士たちは、彼は諭したそうだよ。

 『敵が本当に包囲に来るのなら、
  自ら自分たちの居場所を知らせるような音は鳴らさない』とな。

 彼らの計略に引っかかって不安定になりかけていた兵士たちの心を、
 すぐにまとめ上げたという。

 流石は……新選組の鬼の副長っと言ったところか
 いやっ、今の彼からは鬼と言う言葉は連想できぬか……」



そう言いながら榎本さんは不思議そうに首を傾げた。


離れていても土方さんの活躍を伝え教えてくれる人がいる。
そんな存在が、仲間がいることが今は嬉しくて。


「山波君、君が知る、君が見た彼らのことを私に教えてくれないか?」


そう言って榎本さんはビールを口元に運んで飲み干した。


求められるままに私は今日までずっと傍に居て、
経験し続けてた新選組の話を静かに始めた。



私が新選組と共に行動をすることになったきっかけ。

新選組が守りたかったものが何か。
山南さんがその死と引き換えに伝えたものは何か。

山崎さんが、井上さんが、近藤さんが守りたかったものは何か……。



どの全ても土方さんにはかけがえのない存在で、
その人たちが見る事が出来なかった世界を、今、
土方さんは見届けているのだと私は伝えた。



私が話す長い昔話を、榎本さんは茶化すでもなく、
真っすぐに受け止めてくれた。




「……そうか……。
 土方君はそうして、皆の想いを受け止めてこの場所に居るのか。

 だから……か……。
 それゆえに、私には彼が、死に場所を探しているように感じてしまうのかもしれないな」



そう言って榎本さんは、小さくつぶやいた。




死に場所を探している。



土方さんを見つめていて、そんな風に感じることがなかったわけじゃない。


だけど……土方さんがって、
その思いを即座に否定したい私も存在して、
考えないようにしていた。



だけど……榎本さんは、
今確かに、私の心に湧き上がるものと同じ不安を言葉にした。



「総裁、宜しいですか?
 今、広間に客人がお見えです」


そう言って舞が私たちの会話の話を折るように、
割って入った。



舞の言葉にすぐに退室して、広間へと向かう榎本さん。


榎本さんが退室した後
その背中に視線を追いかけながら小さくつぶやく。



「私に言わせてみれば、どっちもどっちよ。

 総裁は戦をする気なんてないもの。
 心の中は、何時、どのタイミングで折り合いをつけて降伏しようか……。

 そればかり考えてる。

 土方さんも、自分の命の捨て場所ばかり。


 二人ともバカなの。
 どっちも大馬鹿野郎なのよ。



 ……なんで、男たちってあんな生き方しかできないんだろうね」



舞の言葉が心に突き刺さった。


暫くすると客人との話を終えたのか、
榎本さんが私たちの元へと姿をみせた。




「山波君、加賀君。

 今から永井君に土方君の元へ、
 言伝(ことづて)を頼んだんだ。

 二人も同行しておいで。

 君たちにあうと、土方君も考えを改めてくれるかもしれない」


そう言って榎本さんは私と舞に、
この場所を離れる許可をくれた。