「ねぇ、舞、私たちには何が出来る?」


花桜はそう言って、忙しくなく動き続ける
兵士たちを見つめながら問いかける。


この戦いは負けてしまうことを私は舞ちゃんの記憶で知ってる。


花桜には、ちゃんと向こうの世界へ帰らさないといけないから、
そんな危険な場所には連れていけない。


「花桜が出来ることは剣を持って戦うこと?
 銃を持って戦うこと?

 それとも、負傷した兵を今まで
みたいに治療して看護すること?」


わざと、そういう言い方をする私は、
ズルイって思うけど、その三択を並べた時、
花桜が手当をする裏方を率先して選ぶのは知っていたから。


「私はこの場所で準備して待ってる。

 万が一、負傷して帰って来た人がいても、
 ちゃんと今、自分が身に着けた技術の精一杯で向き合う。

 舞、有難う。
 準備してくる」




そう言って花桜は私の前から立ち上がると、
自分の部屋の方へと移動する。


部屋に入った花桜は、薬を煎じる道具を操りながら何かを作っているようだった。
無心に数種類の漢方薬をあわせながら何かを作っていく花桜。

花桜は時間をかけて作った塗薬を何かのケースへと詰めて、
そして晒を細くしたものと一緒に袋の中へと入れて部屋を出ていく。

それを土方さんに渡しているみたいだった。



「花桜、何渡してたの?」

「応急処置用の塗薬と止血剤になる漢方薬かな。
 私に出来るのはそれくらいだから。

 接舷して制圧するっていってたから、
 銃って言うより刀で斬りあうイメージが強かったから」


そう言って花桜は部屋に戻って、広げていた道具を片づけた。

夜中、宮古湾に出発した皆は、
6日後に命からがら戦に負けて帰ってくることになる。


幡龍は暴風雨に襲われて行方不明。
高雄は機関損傷。

何とか無事に到着した土方さん率いる回天が任務に挑んだものの、
接舷が思い通りに出来ず、回天から甲鉄艦に乗り込めたのも10人もなく、
生き延びることが出来たのは2人だけ。

船に取り付けられたガトリング砲の洗礼もあって、
戦開始から30分もたたずして何とか命からがら逃げ延びてくると苦い戦だった。


後で言われる宮古湾海戦が終わった後も、
雪解けの頃から次から次へと戦は続いた。




その後も、二股口を守るように言われたの土方さん。
弁天台場を守るように言われた新選組の隊士たち。


それぞれの役割を日々、こなしながらも
精一杯、この時代に生き続けようとする漢(おとこ)たちを、
見つめながら、私は迫りくる約束の時間の足音を感じていた。