「土方さん……、それは山崎さんが嘆く場所ですよー。
 また、あのお人は一人で無茶して~って」


思わず懐かしく紡ぎだされた名前の中に、
丞も仲間に入れて欲しくて、わざと紡ぎだす。


「だろうなー。山崎と源さんには心配されて、かっちゃんには窘められるんだろうなー」


そう会話を続ける土方さんが、ぼそっと弱音をこぼす。


……皆、居なくなっちまったな……。
その言葉が傍にいる私にまで深く突き刺さってくる。


そんな土方さんに、
今も土方さんを必要としている存在に気が付いて欲しくて、
わざと明るい声で別の会話をふる。



「土方さん、皆さん大広間で楽しく夢を語り合われてますよ。

 ここに来るまでは険しい顔しかみせなかった皆さんが、
 笑顔で話し合われてます。

 笑顔っていいですよねー。
 土方さんも眉間に皺を寄せてばかりじゃなくて、
 皆さんと夢を語り合われてみたらいかがですか?

 榎本さんは、土方さんとじっくりと語り合ってみたいそうですよー」



最後の一文に特に力を入れて、
伝えてみる。


すると土方さんは、溜息をつきながら「……苦手なんだよ……」っと小さく告げた。


「松本先生たちには仙台で帰れっと半ば命令のような形であの場所に残した。

 この地に来るまでにも、故郷へ帰るように諭したもの、あの地に残したもの、
 半ば強制的に離隊させたものも居た。

 かと思えば新たに新選組に迎え入れたものもいる。
 この地に連れて来た奴らは、不器用で、この地でしか生きていけねぇ、
 そんな奴らばかりだ。

 俺はここまで、来ちまった。
 今の俺をかっちやんが見たら、なんていうんだろうなー。

 死神にでも俺は取りつかれちまったのかな……」


土方さんが紡いだ、『死神』と言う言葉が私の脳裏に強くこびりついた。



「土方陸軍奉行並。宜しいですか」


ふと、部屋の外から隊士の声が聞こえた。

土方さんは先ほどまでの弱音を隠すように、
ホットワインを一口飲み干すと「入れ」っと外の隊士に告げて、
鬼の副長へと表情を変えていく。



「失礼します。

 今しがた、門の外でお二人の名を知る女がこれを持って訪ねてきておりますが、
 いかがしましょうか?

 総帥より、土方奉行に一任すると仰せつかっています」


そう言って隊士が差し出してきたのは、
近藤さんの羽織を分け与えて作ったお守りと見覚えのある匂袋。


「土方さん……」

 
私は土方さんよりも先にその持ち物に反応する。


……舞……。



慌てて部屋を飛び出して門の方へと駆け出した。
部屋から一歩、外に飛び出したら蝦夷地特有の肌を突き刺すような寒さが頬を掠めていく。


私が慌てて門の方へと走っていくので、
何事かと反射的に門の方へと意識が向く隊士たち。


「開門してやってくれ」


慌てて後ろから追いかけてきてくれた土方さんが、
門を警護する隊士に声をかけてくれて、
ようやく門が音を立てて開きだした。