蝦夷共和国。

榎本武揚さんが初代総裁になった旧幕府軍の最後の砦であるこの場所で、
私たちの生活が始まった。

雪深い季節になり、最初の頃は戦いと言うよりは、内政や整備に重きを置いて明け暮れる日々だった。

榎本さんが中心となって役員たちを集めお茶会の中での会議は、
土方さんは苦手なようで、自室に引きこもって地形図を眺めている方が多かった。


春が近づいてくると本格的に戦いが始まる。

土方さんはそんな風に考えていたのか、
地形図を眺めては、どこに砲台を新たに作るといいのかなどと、
脳内シュミレーションを何度も繰り返しているようだった。


そんな土方さんを気にかけながらも、
私は私に出来る役割を精一杯手伝う努力する。

榎本さんたちが主催する会議の席で、お茶やお菓子の給仕をする。

客人がいらしたときには、共におもてなしを手伝うこともあった。

連日連夜の宴の開催の時も、その場に姿をみせて出来ることを手伝いながら、
コミュニケーションが不足がちな、土方さんと榎本さん、そして大鳥さんたちの間を埋めれるように
意識して動き続けた。


「土方さん、山波です」


今日も部屋に引きこもる土方さんに声をかけて
私は入室すると、デスクの上に、ホットワインが入った湯呑を置いた。


「榎本さんからです」

そう告げると土方さんは「また、これかぁ。たまには日本酒を飲みてぇな」なんて
愚痴りながらホットワインから視線を地形図へと移す。



「今日も地形図をみてらっしゃるんですね」

「あぁ。
 今は雪のために一時、休戦状態だが、雪が解けると再び戦は
 避けられん。
 それは今後の行く末に強く影響するだろう。

 今はその戦への備えをする時。
 毎夜、酒を飲み、茶菓子を食べ西洋被れの生活に浸る時ではないだろう」


そう言って、土方さんはまた地形図見つめた。


「山波、山波が知る山南さんはこの地形図を見るとどうでると思う?」

そう言って土方さんは真っすぐに私を見つめる。

ふられた私は地形図のテーブルの前にたって、この場所でしょうか?
っと、思いついた場所を指さす。


「そうかぁ。山波も、山南さんはそこを選ぶと思ったか……。
 俺はな……」


そう言いながら、土方さんは言葉を続ける。


近藤局長だったら、この場所。
沖田さんだったら、この場所。
斎藤さんなら、この場所。


それは今まで大切な友と束の間の会話を楽しんでいるかのように私には感じられる。


「……で、俺はこの場所だな」


そう言って土方さんが指さした場所は、少人数で
奇襲するにはよさそうだけど、正直、今の隊士たちでは危ぶむポジション。