「皆さま、お帰りでございます」
誰かの声に、一斉にまた女性陣が動き始める。
手桶にお水を汲んで、手ぬぐいと共にそれぞれの戦帰りの人たちの元へと駆け寄っていく人。
飲み物や、おむすびを振舞うために運んでいく人。
かと思えば、負傷した兵士さんたちに手を貸して奥の部屋へと連れていく女たち。
「殿は籠城を決意された。
だが周囲は新政府軍に囲まれつつある。
会津の誇りの為、皆の力を貸してほしい」
帰って来た兵士の誰かが力強くそう告げると、
会津の女たちは頷くように力強く同意した。
私は手伝いながら、斎藤さんの姿を探す。
「あの……斎藤さん……。
えっと、山口さんは」
「山口は我らよりもう少し前線に出陣していたはずだ。
今暫くすると戻って来るだろう」
そう言いながら、その人は手桶の水で手を洗い、
手ぬぐいで甲冑から出ている部分の体の汚れを拭う。
その着物には何か血が付いたような、
真っ黒な染みが広がっていた。
「あの……負傷されてますね。
失礼します」
声をかけて断りをえると、
私は袖をめくり傷口を直接見つめる。
「そなたは?」
「この手の傷とは随分向き合ってきました」
そう……花桜と一緒に。
「このまま食事でもしながらお待ちください。
手当の準備をして戻ってきます」
一礼をしてその人から離れると私は消毒用のお湯を熱湯にいれて、
清潔な布と、傷口に湿布する薬草を手にして慌てて戻る。
「お待たせしました」
そのまま処置をはじめる。
消毒をしている間は時折、痛みに顔を歪めることもあったけど、
どうにか落ち着き始めたようだった。
「鎮痛効果のある薬草と炎症を抑える効果のある薬草を湿布してあります。
戦が続いている中、安静にするのは難しいかもしれませんが、
薬が効くまでは、無理しないでくださいね。
患部に再び痛みが走るようになったら、こちらの薬を服薬してください」
そう言って、懐から持ち歩いている薬を一つ、その人の手に握らせた。
「舞、今戻った」
そうしていると聞きなれた声が耳に届く。
振り向いた先には、斎藤さんが銃撃戦により銃弾が着衣を掠めたのか、
生地が裂けたり、スッパリ切られたり。
あちこちに黒い染みを同じように作って、肩で息を整えながら姿をみせた。
「斎藤さん、お帰りなさい。
今、お水と飲み物、そしておにぎり運んできますね」
慌てて再び奥の部屋へと急いだ頃、
近くと、ドカーンっと何かが弾けるのを感じた。
「砲火だー。
敵の砲火が始まった。
各自、自分の身を守りながら備えよ。
休息・食事がとれたものから、再び白からうってでる。
銃をもって集まれ」
ようやく騒々しさが賑やかさに戻り、
城内が活気づいていたのに、
こんな風にすぐに、ざわつき始める。