「何とか事なきを得たようですねー」

「えぇ、相変わらずハラハラさせよるわ」


なんて何事もないように、お互いの視線を向かい合わせて声を掛け合う、
お祖父ちゃんとお祖母ちゃん。



「瑠花ちゃん、孫の為に心配かけてばかりじゃな」

「心配なんて……当然です。
 私たちが幕末に旅立った後から、お二人はこの鏡でこんな風にずっと見守り続けてきたのですか?」



今も鏡は無音のまま、幕末の時代を映し出し続ける。



「ずっとお尋ねしたかったことがあるんです。
 花桜の苗字の山波の姓は、新選組総長をされていた山南さんの呼び名?なのでしょうか?」


真っすぐに姿勢を正して投げかけた問いに、
二人は互いの顔を見合わせて、ゆっくりと私方へと視線を向けた。



「敬介さん……」


お祖母さんの声に静かに立ち上がったお祖父さんは、
何か巻物のようなものを手にして私の前へと戻ってきた。



「瑠花さんの推察通りじゃ」


そう言ってゆっくりと広げられたのは山南さんとの血の証を告げる山南さん直筆の書と、
家系図だった。



家系図の一番上にはあの日切腹した新選組総長の名前がしっかりと記されていて、
その隣には明里【あけさと】さんの名前が記されていた。


山南さんの名は危ういので山波と言う漢字に変えて、
山南さんの愛刀の片割れを家宝にあの後も生き続けてきた明里さん。

二人の間に姓を受けていたのは、山波総助【やまなみ そうすけ】さん。
総助さんの名は山南さんが名付けたもので、沖田総司から一字貰い受けたものだとも記されていた。


総助さんから次々に受け継がれた山波家の歴史は、
やがて今の花桜のお祖父さんである敬介【けいすけ】さんへと辿り着き、
その隣に立つのは【あけさと】にも通ずる漢字を持つ、花桜のお祖母ちゃんへと続いている。



「花桜は山南さんの血を継ぐものだったんですね」

「えぇ。
 花桜は正統な後継ぎです。

 遠い世界を映し出すこの鏡も、明里【あけさと】の手記に寄ると初代さんから頂いた大切な品のようです。
 だからこそ、長き年月をじっと寄り添い続けた鏡だからこそ、神が宿ったのやも知れません。

 ずっと私の姿を映し出していた何の変哲もない鏡が、
 あの日を境に、幕末の景色ばかりを映し続ける続けるようになりました。

 そして遠い初代さんが書き残した書物は、何一つ出てこなかったと言うのに、
 今になってこうして初代さんの手が綴られた書が此処へ」


そう言って、お祖父さんとお祖母さんは目の前の巻物へと視線を落とした。




「花桜と一緒に私たちが幕末に旅立つことは、
 昔から運命【さだめ】られていたのでしょうか?」


なんとなく、そんな言葉が湧きだした。