「山波、いるか?」

負傷兵の手当の手伝いをする合間に、
桶に水をくみに向かった井戸の傍へと土方さんが訪ねてきて私の名を呼ぶ。

滝沢本陣に辿り着いた日から数日が過ぎた日のことだった。



「お呼びでしょうか?」


くみかけの水を桶へとあけると、
作業を中断して土方さんの方へと体を向けて声をかけた。


「もうすぐ、この場所にも敵が攻めてくる。
 俺は先の軍議で会津の大殿より庄内藩へと援軍を呼びに行く命を受けた。

 新選組を斎藤と共に会津へと残るものと、俺と共に行動するものにわけた。

 斎藤より加賀と共に行動していた親しかったものが戦死したことは聞いている。
 俺は北へと向かうが、山波は加賀の傍にいても良い。

 お前たちは遠い世界から来たのだったな。
 芹沢さんは、月といって笑ってたな。

 だが岩倉は先の未来を語るのに明るかった。
 岩倉と親しくしていた総司は、聞いていたんだろうな。

 岩倉の姿が消えて、大阪の戦の頃からだったかな。
 いろいろと俺に、月の情報を話してくれた」

土方さんの言葉に、その総司の存在は敬里に代わってからの時間で、
瑠花が、本当の沖田さんと向こうの世界に戻ったであろうと思われる時間の出来事だと思えた。

確か、錦の御旗がたっちまうんだろうって、突然と言われて戸惑って記憶は残ってる。
それと同時に、簡単にら話してしまった口の軽い敬里にイラついた。



「山波、岩倉が体験した芹沢さんの事件も、山波が逃げることをしなかった山南さんの事件も
 全ては月の世界で見知っていたんだろう?

 だったら、どうしてお前たちは目を背けようとしなかった?」


目を背けようとしなかった……って、そんな言われ方するとは思わなかった。
土方さんの目に、そんな風に映っていたなんて。