アイツが私を庇ってその命を落として、
猪苗代から滝沢本陣へと辿り着いた私たち。

だけど私は今も、現実を受け入れる事が出来ないでいた。


「舞、お白湯持ってきたよー。
 少し飲まない?体、温まるよ」


そう言って、花桜は本陣の一角で塞ぎこんでいた私の隣に近づいてきて、
ゆっくり腰を下ろした。


花桜から手渡された湯呑から、温かい白湯の温もりを感じる。
その温かさが、私自身の手足が冷たくなりすぎている事実に気づかせてくれた。


隣に腰を下ろした花桜は、私よりも先にお白湯を一口、一口と飲みながら
誰に視線をあわすでもなく話し始めた。



「あのバカ、笑ってた……。

あのバカが笑ってた最後の顔を見てたらさ、
 丞を思い出ししちゃった」



丞って言ったら……確か山崎さん。
花桜が大切に思ってた人。


大坂の戦いで花桜をかばって、爆風に吹き飛ばされた存在。
その時の傷がもとで、和歌山沖で水葬された。

あの時の雷(いかづち)に誘われて、向こうの世界に行っているか、
そのまま海に消えてしまったかは私にはわからない。


「丞ってさ、あんなに深手を負ったのに、
 あの後、『花桜ちゃんは無事やったな。わいは約束は守る男やで』って、
 意識を失う前に満足そうに私に話したんだよね。

 私は、バカって言う言葉しか出てこなかった。

 だけど、最後の敬里の顔が、あの時の丞と重なるんだ。

 バカだよ。
 丞も敬里もバカよ。

 最愛の人を置き去りにして一人だけ、勝手に何処かに行っちゃうなんてバカ以外の何物でもない。

 そんなことして命を無駄にする暇があったら、
 ちゃんと生きて、今の私の隣を歩いてよって。

 それが本音。
 男の美学と女の望み。

 価値観の違いなのかなー。

 だけど、どんなに悲しんでも悔やんでも、勝手にあっちに行った存在は戻って来ないから。

 だったら私は、最愛の人が命を懸けて守り続けてくれたこの命を、
 絶対に無駄になんてしたくないって思ったんだ。

 今も心が弱るとすぐに、丞を求めてしまう私がいるけど……
 私に『生きる価値』があると思って、『守る価値』があると思って体が動いた結果が、
 こんな形になってしまった。

 だけど最愛の存在を守れて満足してるんだ……って。
 そうなんだとしたら、やりたいことをやり遂げた大切な人の存在を私が否定するようなことしちゃいけないって思うから」





吐き出すように、絞り出すように紡ぎだされた花桜の本音。