「敬里」
「敬里や」


鏡は今も容赦なく残酷な映像を映し出し続ける。


敬里が銃に撃たれたことに対して、
発狂したように崩れ落ちる舞の体。

そんな舞と敬里の異変に気が付いて、
敵部隊と交戦していたその手を止めて、
二人の元へと駆け寄ってくる斎藤さん。


撃たれそうになる舞を庇うように、
茂みの中へと飛び込んで、
隊士たちへと攻撃の合図を手で送る。

味方の何度かの応戦の後、
タイミングを探って茂みから外に飛び出した斎藤さんは、
敬里の体を支えて再び茂みへと逃げ延びる。


負傷した敬里を同行させたまま、
斎藤さんは気力がなくなったように映る舞もつれながら、
何とか味方の陣へと逃げのびようと足掻いているようだった。


そんな無情な映像を映し続ける鏡。


その場に居合わせた皆が言葉を失った瞬間だった。

花桜のお祖父様とお祖母様は、鏡の前を離れて
何処かの部屋へと移動してしまう。

そして私の傍で、鏡を見つめ続けていた総司もまた、
その映像から逃げ出すように、道場の方へと離れていった。



私はどうすることも出来ず、
起こってしまった現実から逃げ出すことがないようにするべく、
じっと鏡が映し出す映像を睨むように凝視し続けていた。


鏡の告げる映像は、今も銃弾が飛び交う山の中を、
敬里をつれて一行が必死に、逃げおおせる経路を探し求めながら彷徨うように
歩き続けている。

息を潜めるように移動するものの、何度も遭遇しそうになる新政府軍。
時に、刀や銃で戦いながら、
命からがらに逃げ続けるそんな姿が映し出されていた。


ふと携帯電話が震えてパパからの着信を告げる。

携帯電話の待ち受け画面に映る時計を見て、
4時間も経過していることを知る。



「もしもし……」

「瑠花」

「パパ、連絡を忘れてしまってごめんなさい。
 でも私、今日はこの場所から離れられない。

 パパ……どうしよう……。
 総司と入れ替わりで幕末に行った敬里が銃で撃たれたの。

 多分……お腹のあたりが撃たれたように感じたんだけど……、
 体が崩れ落ちちゃった……。

 花桜のお祖父さまも、お祖母さまもショックだったみたいで、
 どこかの部屋に移動してしまって……。

 パパ……私、何も出来ないの。
 どうしたらいいの……」



心のどこかで、
私たちが殺されるはずがないって思ってたから……。