将軍山(母成峠)での戦が始まったと一報が入った時から、
雲行きはかなり怪しかった。

このままじゃ負けるかもしれない。


そう感じた土方さんは、増援に駆け付けようとその頃から慌ただしく動き出す。
新選組の隊士たちの無事を願って。


土方さんと私たちは、福良の地を出発して雉(木地)小屋へと向かう。

そこで最初の待ち伏せに会い、新政府軍と一線を交えると
今度は須賀埜村へと兵を集め、戦力の立て直しをはかった。

だけど、その場所でも負傷者が増えるばかりで、
増援に向かうどころじゃない。


握り拳を振り下ろして悔しそうに「猪苗代へ向かう」っと、
土方さんは告げると、私たちは負傷兵たちを庇いながら、
山道を猪苗代方面へと息を潜めながら向かうのでした。



猪苗代城下に辿り着いた土方さんは、そのままお偉方との話し合いと、
福良本陣へと援軍要請をしたものの、福良から援軍が来ることはなかった。


そんな頃、十六橋(じゅうろっきょう)を落とせと軍議の中で決定する。

十六橋は石の橋。
その橋を落とすための支度が整えられる頃、表の方が騒がしくなった。



「将軍山(母成峠)から戻られたぞー」


誰かの声に一斉に視線が集中した先、
斎藤さんと共に、舞が姿をみせる。



「舞っ!!」


慌てて駆け寄るも、舞は自分で歩いているのはずなのに、
意識は宙を彷徨っているようで、視点が定まってない。



舞の他、次から次へと姿をみせる隊士たちは、
皆、傷だらけで……目をやられたもの、腕を抑えるもの、足を引きづる者、
様々で、その戦いの酷さを想像できた。



「斎藤、良く戻った。
 
 俺たちは準備が出来次第、十六橋を落とす。
 あの場所を落とせば、少しは勝気が見えるだろう。

 お前は少し奥で休め」


土方さんは、そう言うと十六橋を落とす(まもる)ため、
まだ年若い白虎隊を始め、寄勝隊(きしょうたい)・
敢死隊(かんしたい)・回天隊(かいてんたい)・
誠忠隊(せいちゅうたい)を率いて、
任務にあたろうとしているみたいだった。


「土方さん」

「山波、お前はお前のするべきことをやれ。
 もっともっと負傷兵が戻って来るぞ」


そう言って土方さんは言い残すと、
私も今一度、気を引き締めて深呼吸で精神統一をした後、
現実の戦場へと身を投じた。



もう何人もこの場所まで戻ってきたのに、治療の甲斐なく見送った人もいる。
熱が下がらずに、苦しみながら、魘され続けて旅立った人もいる。

目を背けたくなるような現実ばかりが続いて、
逃げ出したくなるようなことばかりで、
私たちが本当にどれだけ、現代でのうのうと甘やかされて守られて生きてきたかを
思い知らされた時間。


だけど……零れ落ちていく命もあれば、
ちゃんと助かった感謝してくれる人たちも居るわけで、
そんな僅かな望みに縋るように、負傷兵たちの手当を次から次へと手伝い続けた。


そして私は……気が付いてしまったんだ。


アイツの……敬里の姿がないことに。

舞が姿をみせているのに、アイツの姿がない。
何故?